過去の記憶
少しの変化
意気揚々歩く、志遠に春鈴は待ったを掛けた。
「志遠様、この者達はどうするのです?」
「そうであったな……」
この場に眠る者達のことを失念していた。
「普通に起きるとは考えられないが……」
起こしてみるか……と手頃な所に居た九垓の身体を志遠は揺すってみた。
「おい! 起きろ!」
「……何ですかぁ~……、そんな乱暴にして……って、うわ! 志遠様?!」
この感じだと普通に起きれるのか……、しかし何故そんなにも驚く。
「何か変な感じはしないか?」
「いいえ、ありませんが……」
「そうか。なら、ここの者達を全員叩き起こせ」
「全員ですか?」
「ああ、全員だ。お前が寝ている間、この者達も同じようになっていた。その前にあの二人を
志遠にしては落ち着いた判断。
そして、春鈴はそんな志遠よりもその二人を見ていた。
春鈴の行動で助かった命なのか分からないが、その武官らしき大柄の男と手を休めずにいた下女。
下女の方は九垓だけで何とかなりそうだが、そっちの大柄の男はもう一人か二人いないとダメだ。
「志遠様……」
「分かっている。俺も力を貸そう。今は俺も宦官だからな」
その実、この方は皇帝陛下の末の腹違いの弟だと知るのはこの中に何人いることやら。
「春鈴も手伝ってくれるか?」
「はい」
素直に従う所を見ると何もなかったように思えるが、寝ている間にこの二人に何があったのか、二人の空気感が違くなったような気がする。
怪しい――。
そのような顔の九垓に志遠は何に勘付いた? と思っても声を掛けなかった。
知らぬが仏。このような関係は自分と春鈴だけが知っていれば良いと、春鈴にも指示を出し、その二人を起こしにかかる前に逃げ出さぬように縄を持って来させ、縛り上げる。
「何とも嫌な事をしている気分になります」
「それはこっちの方が悪いんだから仕方ない。起こして暴れても困るからな。そうなる前にそうする」
ぐっすり寝ていられる方が幸せなのかもしれない。
「お前は、こうなる前にそれを吸わないようにしたのか?」
「いえ、覚えていませんが、まあ、パッと起きれる自分にしてはそれなりにぐっすり寝ていたと思いますよ。そうでなければあんな……寝ぼけまなこにならないでしょう」
「そうか。それは
「恥ずかしいので思い出さないで下さい!」
こんな恥ずかしそうにしている九垓を初めて見たという目が二つあることに気付き、九垓は事を早く終わらせようと行動した。
そのおかげか思ったよりも早く片付いた。
これで大方、道標みたいなのが出来たわけだが、倒流香炉が善裕宮にあると噂を出したのは誰か。
まさか、本人達ではないだろうが……その辺も含めて、話を聞くしかない。
そして、姿を消したまま現れない綺霞。
空を見上げれば、とうに赤い月は消え、黄色い月が顔を出していた。
「あれは本当にほんの僅かな時間だったのだな……」
「ええ、本当に。その間に、全てが行われる」
それは圭璋が言っているのか、春鈴が言っているのか分からない。
「もうあれには宿ってないと思うか?」
「分かりません。姿を現したのは気まぐれか、面白いと思ったかです」
「面白いね……」
こちらとしては全然面白くないのだが、こうして春鈴が隣に立つ感じ。
前はもっとふにゃっと柔らかく感じていたのに今はもうしっかりと立っているように感じる。これは自分が圭璋だと明かしたからなのだろうか。それとも自分の役割をやっと果たそうとしているのか――。
「これでまたしばらくはゆっくりできそうだな」
「いいえ、何を言っているのですか、志遠様。ここからですよ!」
「え?」
それは春鈴だけがウキウキとして良いものではなかった。
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