7 戦地へ

戦地へ

「じゃあ、確かに預かるぜ。……安心してくれ。飼い葉をしっかり食わせて運動もさせてやる。なにせあの、ガルシアの頼みだからな。他言はしないさ」


 王都を出ると、俺たちはまず郊外にある小さな村に向かった。

 そこまで案内してくれた冒険者に、乗ってきた馬を預ける。もちろんこの男もガルシアの紹介だ。


「よろしくお願いします。もし、ひと月経っても戻って来なかったら、この馬を処分してください。売った代金は差し上げます」


 男は首を振った。


「そんなことをしたら、ガルシアに首を絞められちまう。あの大将は曲がったことは大嫌いなんだ。戻るまで、いつまででも預からせてもらうさ。なあに、長くなったって構わないんだ。それでガルシアに恩が売れるなら安いもんさ」



 馬を預けて身軽になると、俺たちはしばらく村の外を歩いた。

 このあたりは王国の穀倉地帯のひとつだ。刈り取りが終わった後の、寒々しい麦畑が延々と続いている。


「馬をみんな置いてきちゃって……これから、どうやって移動するんですか?」


 ミオが不安そうに聞いてきた。


「そうか、まだ話してなかったかな。実は、とっておきの移動手段があるんだ」


「とっておきの移動手段?」


 説明しようとした俺の手を、カティアが引っ張った。


「言葉で説明しても理解できるはずがありません。百聞は一見にしかずです。実際に見てもらいましょう。……ミオさん、あなたは、どんなことでも受け入れる覚悟があると言っていましたね」


「はい、もちろんです。シオリ様のためなら、なんでもします」


「それなら問題はありません。……そろそろ、この辺でいいでしょう。

 ショウヘイ殿、全員にステルスをかけてください。その後でお互いの体にタッチして、ここにいる人間の魔法効果を解除します。そう、もっと固まって。あんまり離れると、『目隠し鬼』みたいになりますよ」


「よし、準備はいいな。ステルス!」


 魔法が発動しても、俺の視界は何も変わらない。

 だが、他の人間はそうはいかない。一人ひとり、手を伸ばして確認するしかない。

 その場にいる全員の接触が終わると、カティアは自分の首に巻いていたスカーフを取った。俺のことをツンツンと突つく。


「ショウヘイ殿、少しかがんでください。目隠しをします」


「わかったよ。さっさとやってくれ」


 これも、いつもの手順のひとつだ。

 リーリアがドラゴンの姿に戻れば、当然、巨大化する。服を破らないためには、先に裸になるしかない。


「私は別にいいのよ。ショウヘイにだったら、むしろ見せてあげたいくらい」


「リーリアさんが良くても、私が良くありません。ここはハーレムじゃないんですから。あなた方のお目付け役として最低限の節度は守ってもらいます」


「カティアちゃんって、お堅いのね」


「あなたの存在を認めているだけで、私にとっては大事件なんですよ。結婚する前から、ドラゴンの愛人なんて……ほんと、どうしてこんなことになったのか」


 カティアが目隠しをすると、目の前が真っ暗になった。

 俺のことを信用していないんだろう。かなりキツく縛っている。


「さあて、じゃあ始めましょうか」


「えっ。ちょ、ちょっと待って。どうして脱ぐんですか?」


「決まってるわ。脱がないと裸になれないじゃない」


「こんな場所で……は、裸になるなんて。寒くないんですか。ていうか、変です」


 ミオが戸惑っている。

 そうだよな。それが普通だ。

 近くにいる人間がいきなりストリップを始めたら、誰だって驚く。


「人間とは鍛え方が違うもの。それにもともと、私は裸で育ったのよ。服にも慣れちゃったけど、本当はこの方が開放的で好き」


「で、でも。恥ずかしくないんですか」


「どうして? 見ているのはメスばかりよ。ショウヘイ以外のオスが見ていたら速攻で殺すけど、近くにはいないし……魔法もかかっているんだから心配ないわ」


「……本当にぜんぶ脱ぐんですか?」


「当然よ。この下着、気に入ってるんだもの。あぁーあ。ショウヘイに見せたかったな。人間のオスは脱ぐのが好きみたいだから。これを見たら、きっとイチコロよ」


 なんだか会話を聞いているだけで興奮してきた。

 何も見えないのが、かえってそそる。 


「……ふふん、どう? キレイでしょう。こんな美女を抱こうとしないなんて、ショウヘイもどうかしてるわ。……そうだ、ミオちゃん。向こうに着くまでの間、脱いだ服を預かってて。後でまた着るんだから、シワにしないでよ」


「はっ、はい」


「さあ、ドラゴンの姿に戻るわよ。つぶしちゃうといけないから、もっと離れて!」


「つぶしちゃう?」


「本当は警告なんてしないんだけどね。あなたのことは気に入ってるから、殺したくないの。いくわよ、3、2、1……」


「きゃあああああああああ!!!」


 ミオの絶叫が響いた。

 鼓膜がどうにかなりそうだ。ステルスの効果がなければ、馬を預けた村まで届いたかもしれない。








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