第2話 庵原 昴
この春から、あたしは高校生になった。
進学先は、近所の公立高校。
この頃には両親も、あたしがクラスで浮いた存在であることに気付いていた。
だから、地元ではない私立の学校に進学するよう強く勧めてくれた。
けど、あたしが断った。
両親に金銭的な負担を掛けたくなかったこともあるが、今更、おじいちゃんから教わった魔法を捨てて、普通の人のフリをして生活することも出来ないと思ったからだ。
地元外に進学すれば、新しい人たちの輪に入れるだろう。
その人たちは、あたしの姿が自動的に消えるようなフィルターを付けずに、今のありのままの姿を見ようとしてくれる。
そうなれば、新しい友だちを作ることも出来るだろう。
でも、そうなれば、あたしもその子のことが好きになるし、大事になる。
大事になれば、その子が
つまり、おじいちゃんから教わった魔法を使いたくなる。
その子たちが、魔法を理解するだけの良い耳を持っていてくれれば良いのだが・・・・・。
持っていなければ、同じことの繰り返しであり、あたしはまた嫌われて自然と消えることになる。
そう言うリスクがかなりの確率で存在していることを今のあたしは理解している。
だから、敢えて無視されることを許容する形で、地元の高校に進学することにしたのだ。
進学した当初は、他校から来た子から声を掛けられることがある。
中学校に進学した時もそうだった。
前の席に座った髪の長い子が、親しげに話し掛けて来てくれた。
でも翌日、彼女は挨拶しようとしたあたしを見て、あたしが見慣れている表情をした。
- 誰かにあたしのことを聞いたんだ! -
そうあたしは直ぐに理解した。
見慣れている表情。
それは、無視するのではないが、親しげに話すことを拒むと言うもの。
だから、あたしは彼女の心の所在が分かり、あたしの方から無視した。
あたしと親しくすれば、彼女がハブられることになるのは分かり切っていたからだ。
1日でもあたしに優しく声を掛けてくれた子を、あたしのせいでトラブルに巻き込みたくなかった。
そして今回も、一人の子が話しかけて来てくれたが、3日目にまた同じ表情をされた。
だから私は、また3年間、ぼっちになるんだと腹を括った。
それなのに・・・・・・・・
それなのに・・・・・・
それなのに・・・・
どうしてコイツは、目の前で頬杖をついて、あたしを見ているのだろうか!?
本当に意味がわからない。
コイツとは、隣のクラスの、
小中学校と違う学校だったので、詳しくは知らない。
でも、ジャニーズばりのルックスを活かして、なんとかと言う雑誌のモデルをやっていると言うことは、あたしでさえ知っている。
同級生の女の子たちが、休み時間になる度に噂しているのだから、嫌でも耳に入って来る。
その女の子たちの憧れの的が雑誌の表紙のように、頬杖をついたポーズを決めながら、あたしにほほえみかけている。
- なんだ、このシチュエーションは!? -
「まさか、福原さんがこの学校にいるとは知らなかったよ。ホント、偶然、ラッキーだよ。」
彼はそう言いながら、優しい目であたしを見る。
「ごめん、あたし、あなたのこと知らないんだけど。」
あたしは目を合わせず、つっけんどうに返した。
こういうキラキラ系美男子は苦手なのだ。
いや、そもそも男子じゃなかった、女子も含めて、人そのものが苦手なのだ。
「えっ、忘れちゃったの!?冷たいなぁ〜。命の恩人なのに。」
- 命の恩人!? -
そう言われてあたしは驚いた。
そして、記憶の本棚をひっくり返して、ありとあらゆるアルバムをめくった。
だが、何も出てこない。
全く心当たりが無いのだ。
クラス中から嫌われていること以外は、ごく平凡なのがあたしの人生。
私自身が事件や事故に巻き込まれたことなんか、一度も無い。
だから、命を救われたことなんかも・・・・・ない・・・・・はず。
- そんなこと本当にあったっけ!? -
なんとか思い出そうとしている中でチラッと周囲に目をやると、クラス中の女子から嫉妬の炎に染まった目で睨まれていることに気付いた。
それもそうだ。
庵原くんに好意を抱いている子が、このクラスにも相当数いることは分かっている。
それなのに、その庵原くんから、話し掛けられるシチュエーションをあたしは許容してしまっている。
嫉妬されるのは当然で、これは明らかにあたしのミスだ。
彼女らの悪意が、あたしに向かうことは分かりきっていたのに・・・。
今までみたいに、無視されたり、陰口を叩かれたり、睨まれたりするだけならいい。
イヤなのは、校舎裏やトイレに呼び出されて、実力行使されることだ。
そんなことになれば、話は大げさになる。
- よし、ここは庵原くんを無視しよう -
そう決めたあたしは、視線を庵原くんから外し、足に力を入れて立ち上がろうとした。
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