Rの境界
よろずの
第1話 魔法使い
「あの子と遊んだらダメと言ってるでしょ!!」
「うちの子に近寄らないで!!」
「薄気味悪い子ねっ!!」
「きもちわるっ!!」
「死神!!」
「悪魔!!」
あの日を境に、あたしはそう罵られるようになった。
あの日とは、大好きなおじいちゃんが呟いた一言を、男の子に伝えてしまった日のことだ。
まだ小学校に上がる前。
あたしはおじいちゃんに、国道沿いにあるロケット公園に連れて行って貰うのが楽しみだった。
たまに来てくれる優しいおじいちゃん。
その日もおじいちゃんが来てくれて、公園に連れて行って貰った。
公園の前にある国道の横断歩道で信号が青に変わるのを待っていると、道路の反対側の左の方から男の子が走って来るのが見えた。
名前は知らないけど、見覚えのある子だった。
するとおじいちゃんが不意に呟いた。
「かわいそうに。あの子、事故に遭っちゃうね。」
まだ幼かったあたしにとって、その一言は全身を貫くような衝撃を齎した。
「じこ!?」
「なんじゃ、あの子は
「違うけど、同じ保育園の子。」
「可哀想だけど、あの子は近々、交通事故に遭って死ぬことになるかもしれないね。」
そう言われた瞬間、目の前の風景が色を無くして、白黒になったことを今も覚えている。
幼いながらも、死というものが、どれだけ重大なことなのかを、あたしは理解していた。
だから、公園の中でその子を見つけた時に、つい走り寄って交通事故に遭って死ぬことになると言ってしまった。
すると、そばにいたその子の母親が、血相を変えて飛んで来た。
「縁起でもないことを、うちの子に言わないでちょうだい!!」
でも、翌日、その子はトラックに轢かれて重傷を負った。
小学校3年生の夏休み。
この日も、久々に会ったおじいちゃんと一緒に、河川敷を散歩していた。
するとおじいちゃんは、橋の欄干から飛び込んで遊んでいる男の子を見て呟いた。
「かわいそうに。あの子は明日、事故に遭うね。」
「本当なの!?」
「なんじゃ、あの子は千夏の友だちか?」
「うん。同じクラス。」
「可哀想だけど、あの子は、明日溺れて死んでしまうかもしれないね。」
そう言われた瞬間、あたし自身が深い川底に沈んだような気になり、息苦しくなった。
保育園の時に事故に遭った子は、二度と会うことが無かった。
幼いながらもその
だからだろう、おじいちゃんがそう言ったことにあたしは過剰反応し、心配でいても立っても居られなくなった。
おじいちゃんが止める声が聞こえていたのに、あたしはついその子に駆け寄って、そのことを伝えた。
事故に遭うこと・・・・。
前にも同じようなことがあり、本当に事故に遭ったこと・・・・。
その子はクラスメイトで、クラス中の人気者の男の子だった。
クラスで一番泳ぎが上手な子で、校内水泳大会で優勝していたのを覚えている。
そんな子だった。
だからだろう、泳げないあたしの言葉なんか聞いてくれなかった。
薄気味悪いと言われて、笑い飛ばされただけだった。
しかしその次の日、その子は増水した川に流されて溺死した。
あたしがその子に、事故に遭うよと話したことは、周りにいた何人かの男子たちが聞いていた。
だから、あの子が溺死したのは、あたしが呪いをかけたからだと言われるようになった。
泳ぎが達者なあの子が溺れるのはおかしい。
普通なら、溺れるわけが無い。
普通じゃないことが起きたのだと・・・。
以来、私はクラスで空気のように扱われる存在になった。
そう、無色透明な誰の目からも、見えているのに、見えない存在に・・・。
それでも最初の頃は、悪口や陰口を叩かれたが、いつしかそれすらも無くなった。
そんなことを言ったら呪われるぞと、誰かがまことしやかに言ったからだ。
あたしも無視され始めた頃は悩んだ。
どうしてあたしがこんな目に遭わなければならないのかが、分からなかった。
あたしは助けようとしただけなのに、どうしてこんなことになるのだと思った。
でも、このことを両親には相談出来なかった。
クラスで仲間ハズレにされていることで、心配させたく無かったからだ。
だからあたしが相談出来たのは、やっぱり大好きなおじいちゃんだけだった。
おじいちゃんに仲間ハズレのことを相談すると、おじいちゃんは軽くため息を吐いてから、あたしにも理解できるように、そうなった理由を教えてくれた。
「誰でもね、自分たちが見えないものが見える人は怖いんだよ。だから、昔のヨーロッパでは、そう言う人たちを魔女と呼んで、火あぶりにしたんだよ。」
「火あぶり!?」
「自分たちが必要とする時には助けて貰いながら、必要無くなったら恐れて殺す。昔、フランスに、ジャンヌ=ダルクと言う少女が祖国を救った後に火あぶりになった。だから予言は、信頼できる人以外に、伝えてはいけない・・・。」
「予言って魔法なの!?」
「そうだね、魔法の一種かな?千夏は魔法に興味があるのか?」
「うん。」
「そうか、じゃ、おじいちゃんが魔法を教えてあげよう。とびっきり、強力な魔法をな。」
「やった〜!!」
「ただこのことは、2人だけの秘密だ。お父さんやお母さんにも、言ってはいけない。2人とも、魔法を使えないからね。」
そう言いながらおじいちゃんは右手の小指を差し出していたので、あたしは自分の小指を絡めた。
そのおじいちゃんも、3年前の冬に亡くなった。
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