ドラゴンハント
第12話 男の執念
何? ドラゴンと戦って認めさせる?
ハッハッハ、不可能だろ。
だって……あれよ? マジで地球上には存在しない生物よ?
近いもので言えば恐竜だろうけど、現代地球には存在しない。
あとは……コモドオオトカゲとか。
いやいや、あれだってこっちのドラゴンよりは小さい。
しかも俺には、そんな化け物と戦えるだけの戦闘力がない。
スキルだって、まだ使い方が確立していない《誤字》スキルと、ダメージを受けない《鉄壁・S》スキルのみ。
……これは無理だろう。詰みだ。
「そ、それ以外はないのか? ほら、ドラゴンじゃなくて、兎とか、猫とか……」
「無理だな。そもそも、同調というのは魔物側にある程度の強さが求められる。兎は不可能だが、猫だと……宇宙を飛び回る、メテオ・キャットとか」
そんなファンタジーな。
……あ、ファンタジーか、この世界。ぶっ飛んでんな。
あまりにも無謀なことに絶望していると、リアンナが慌てて口を開いた。
「あ、安心しろ。私はドラゴンの専門家だ。対処の仕方もわかるし、ある程度手助けはできる」
「……本当に?」
「もちろんだ。まあ、ハザマ乎自身が強くならなくては話にならんが……そこも、私が鍛えてやる」
それって、定番の修行ってこと……?
まあ、戦闘が主流の異世界に来たら、いずれそうなるとは思ったけどさ。
まさかドラゴンと戦うために修行する羽目になるなんて。
「善は急げだ。明日から、しっかり鍛え込んでやる」
「因みに、鍛えて勝てる見込みはどれくらい?」
「…………」
スッ。指を1本立てた。
「10パーセント?」
「……1パーセント」
……オゥ……。
◆◆◆
翌日、早朝。
朝日が射し込む丘の上で、俺とリアンナは向かい合っていた。
前日に買った真新しい服が、まだ体に馴染まない。
異世界技術の限界なのだろうか。ちょっと固く、違和感がある。
そんな俺に対し、リアンナも軽装だ。
軽装=薄着。運動するからかタンクトップだ。
胸のせいで丈が短くなり、へそやくびれがチラチラしている。
目のやり場に困るけど、眼福です。相変わらずでっけー。
それでも頭には、いつも通り兜をつけている。
そんなに毎日つけて、蒸れないんだろうか。
「ハザマ、体の調子はどうだ?」
「全身筋肉痛だけど、大丈夫だ」
「あの程度で筋肉痛とは……ひ弱にも程があるぞ」
「うるへー」
運動嫌いなんだよ。インターネットが友達です。
念のために準備運動をしていると、リアンナが木刀を俺の前に突き刺した。
形的には刀ではなく、剣だ。木剣って言った方がいいな。
「時間はあるが、ダラダラやっても意味が無い。これから毎朝1時間、集中的に鍛える」
「剣で打ち合うのか?」
「最初はな。まずは体の使い方に慣れろ。その後、実戦だ」
「実戦……?」
リアンナの言葉に、嫌な予感が脳裏をよぎる。
え、まさか……。
俺の予感の答え合わせをするように、リアンナが右手をあげる。
と、竜舎にいたリオが飛び出し、リアンナの背後に降り立った。
「実戦の相手だ。不足はあるまい?」
「グルルルルッ……!」
嫌な予感が的中したよちきしょう……!
確かにドラゴンと戦うなら、ドラゴンとの戦闘訓練が1番だ。
だからって、竜騎隊隊長のパートナーと戦うとか、頭おかしいんじゃないの……!?
「りゅ、竜騎隊なら、訓練用に手なずけてるドラゴンとかいないのかよ……!」
「いるにはいるが、雑魚ばかりだ。意味がない」
意味がないことはないんじゃないかな!?
さすがに反論しようとすると、リアンナは「それに」と続きを口にした。
「ハザマはどれだけ攻撃しても、ダメージを負わないだろう。なら殺す気でやっても問題ないと判断した」
「ガルッ」
「ひぇっ」
こ、こいつ、今絶対悪い顔してる。兜で見れないけど、絶対悪い顔してる……!
リアンナがリオの頭を撫でると、鼻息を吐いて竜舎へと戻って行った。
「安心しろ。まずは私が相手だから」
「お、お手柔らかに……」
「ハッハッハ、ハザマも冗談を言うようになったか。どうやら、この世界にも慣れてきたように見える」
いや冗談じゃ……。
リアンナは担いでいた木剣を乱雑に振るう。
直後、台風のような風圧が俺の体を叩いた。
俺の真横の地面がめくれ上がり、深々と抉られる。
めくれ上がった土や石が俺の体を叩き、衝撃で尻もちをついてしまった。
冷や汗が頬を伝い、地面に垂れる。
ま……マジか、これ。
生唾を飲み込むと、リアンナは再び剣を担いだ。
「貴様のいた世界に、こういうことができる奴はいるか?」
「い……いない、と思う」
「この世界では、こんな芸当をできる奴らはそこら辺にいる。お手柔らかに修行をしていたら、いつまで経ってもドラゴンに認められるなんて不可能だ」
いやいやいやいや。待って待って待って。
こんなことできる奴がその辺にいるって、この世界どうなってんの?
一般ピーポーが生きるには不自由すぎない?
「私も手を抜く。まずは自由に打ち込んでこい」
「う、打ち込んでこいって……いいのか?」
「安心しろ。貴様の攻撃なんて当たらん」
わかりきってるけど、それはそれでムカつく。
ふん、見てろよ。俺だってやる時はやるんだ。
それに、発想を逆転しろ。
リアンナの攻撃は俺に通じない。つまり攻めて攻めて攻めまくれば、俺の攻撃も届く。
それだけじゃない。今のリアンナは薄着だ。
つまり──事故を装い体に触れることも可能ッ……!
ふははっ。やってやる……やってやるぞ……!
「な、何故か邪な視線を感じるのだが」
「キノセイデス」
恥じらっても無駄だ。目的と目標を見つけた男の執念、舐めるなよ……!
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