いよいよ魔法を

 この世に生を受けてから半年がたち、無事に言語を習得し分かったことがある。


 まず自分のなまえだがヒースというらしい。まあ正式にはヒース・フォン・イースルというのだが。そして、なんと我が家は辺境伯という国防の中で重要な役割を持つ貴族であった。これは、前世で独裁者を倒そうとしていた身からすると複雑な心境ではあるものの何か偉業を成し遂げようとしたとき、貴族であるのはメリットが大きいので良しとしよう。


 次に父親がアルバス、母がグレイスという名前だった。あとなぜかわからないが子育てはほぼ母が行っていた。貴族の家だから乳母やメイドにでも任せるものかと思っていたが意外だった。実際、家の中にメイドらしき人はいるのである。できれば美人メイドにお世話されたいとかいう下心があったが、まあ母も絶世の美女とまでは行かないが十分に美人だし良しとしよう。


 さて、そんな母であるが毎日、絵本の読み聞かせを真剣に聞いていたからか、それとも「本大好き!」といったからであろうか毎日、家の書庫で本を読み聞かせてくれるようになった。


 そして今、読み聞かせ中に母は呼ばれてどこかに行ってしまった。これは魔法に関する本を読むチャンスである。幸い文字は読み聞かせの時に習得してしまった。


 こうなったらあとは本を探して全力でハイハイである。走れないのか?ってこっちは生後6か月というのは本来であればハイハイすらしない年齢である。筋力が足りなくて出来ないのだ。


 しばらくハイハイを続けると「まほうのほん」というタイトルの本が見つかった。本のタイトル的に子供向けでだろう。正直子供向けの本が見つかり安心している。もし仮に「相対性理論の観点から考える時魔法」とかいうタイトルの本を見つけたとして絶対に理解できない自信がある。


 「うーんしょっと」


 赤ちゃんの限られた筋力を使い何とか本を開き読む。


 まずは、体の中の魔力を感知することから始めましょう。

 

 感知すればその魔力を動かすことが出来るはずです。手から体の外に押し出すようにしてみましょう。


 体の外に押し出すことが出来たら今度は「水よいでよ!」と唱えてください。

 

 水が手から出たら成功です。次のページに進みましょう。



 早速、本に書かれているようにやってみることにする。体の外に押し出すことまではできていたので、あとは呪文を唱えるだけだ。


 「水よいでよ!」


 唱えると同時に手から水が出て、魔法が使えたことが分かる。しかしそれと同時に意識が薄れていき...


「ドン」


 座りながら本を読んでいたので、思いっきり頭をぶつけてしまった。普通に痛い、いやめちゃくちゃ痛い。

 

 頭をぶつけた音を聞いた母が慌てて駆けつけてくる。

 

 現在の自分の状況を確認すると、自分の左には「まほうのほん」(魔法を使うときに濡れないように左にどかした)があり、目の前には明らかにおもらしでは片づけられない量の水たまりがある。これ母親に魔法を使っていることがばれたらすごい気味悪がられないか...


 どうやって証拠隠滅しようかと考えていると母親が書庫に入ってくる。


 「ヒース!大丈夫!」


 「大丈夫」


 「ヒースそれも魔法書じゃない。魔法が使いたいの?」


 「うん!」


 「じゃあこれから魔法の練習をしましょう」


 「やったー!」


 こうして俺の日課に魔法の練習が加わった。

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