イノセンテの告白
あの日、力尽きて土の冷たさを感じた時、私は「あぁ、死ぬんだ」と思った。
どのみちこの病気にかかってるから長い命ではなかった。思い返せば幸せな記憶が蘇る。お父さんがいて、お母さんがいて、仲の良かった友達がいて。
あの日に帰りたい。何度そう思ったのかわからない、でももうすぐみんなに会える。そう思って私は目を閉じた。すごく眠かった。
目を覚ました時、そばにいたのがずっと会いたかったみんなではなく知らない男の人だった時、私はここは天国じゃないのだと思った。
実際天国ではなかった、私はまだ死んでいなかった。
その人は見ず知らずの私を何日もかけて看病してくれて、ご飯やお風呂も用意してくれた。あの日の出来事を思い出して泣き出した私を優しく慰めてくれた。
行く宛のない私に「一緒に来るかい?」と言ってくれた。とても嬉しかった、一人で彷徨い続けるしかなかった私を助けてくれた。
そんな私が彼を好きになるまでに時間がかからなかったのは言うまでもないだろう。
始めてそれを自覚したのは最初に2人で訪れた国で、はぐれないようにと彼が手を繋いでくれた時だった。
あの時の彼の手の温かさは今もよく覚えている。
その日は眠れなかった。昔お母さんが読み聞かせてくれた物語のお姫様みたいに「この人のお嫁さんになれたら」と思うようになった。
彼が何か秘密を抱えているのはなんとなくわかっていた。
彼は自分のことをあまり話したがらなかった。でも我慢しきれず、ある時私は聞いてしまった。
「ねぇ、フィーガス。ずっと聞きたかったんだけど、いい?」
突然の我儘に彼は少しだけ時間を置いて真剣な顔で答えてくれた。正直お話の内容はほとんどわからなかったけど、百年生きてるっていうところだけはなんとか理解できた。
それに彼が一緒にいて楽しいって言ってくれてとっても嬉しかった。変な顔してなかったかな、大丈夫かな。
それから彼の友達が見つかってくれたらいいなと心から願った。
その願いは彼が望まない形で叶ってしまった。
知らない声が聞こえたと思ったら彼の腕に抱かれていて私は何もわからなくなってしまった。聞こえる言葉から彼の友達が見つかったのだとわかった。でも「裏切り者」ってどういう意味だったんだろう。
そのあと何かを喋ったらすごく眩しい光がフィーガスの手から出てきた。
そして気がついたらさっきの声の友達はいなくなっていた。
しかし、すぐに呼吸が苦しくなってそんなことも考えられなくなった。
フィーガスが心配してくれたからつい「我慢できる」なんて言っちゃったけど本当は辛かった。
目が覚めると私は仮拠点で寝かされていた。すぐに彼が看病してくれたとわかって嬉しさ半分申し訳なさ半分になった。
そしてすぐに体の変化にも気づいてしまった。
もう私は長く生きられない。なら言いたいことはちゃんと言わないと、お母さんたちみたいに言えなくなってからじゃ遅いもんね。
「私ね、あなたが好き。大好き」
言っちゃった、言ってから恥ずかしくなりそうだけど今は知らんぷり。
「ねぇ、あなたはどうなの? 私のこと好き?」
恥ずかしさを押し殺して聞いてみた。でも彼にははぐらかされてしまった。下手な嘘を私が見抜けないとでも思ってるのかな。素直じゃないフィーガスにはちょっぴり意地悪しちゃおう。
「じゃあ言い方を変えようか。大人になるまで生きていたら、お嫁さんにしてくれますか?」
自分でもそこまで生きてられないのはなんとなくわかってる。だからフィーガスが私を忘れられないように意地悪しちゃった。でもこれが私の本当の望み。もっといっぱい生きて彼の隣で歩きたい。もっといろんな景色を見てお父さんとお母さんみたいな家族になりたい。
でも叶えられないから、今回だけ、ちょっと意地悪。いつか素直になれなかったことを後悔すればいいのよ。
・・・・・・ごめんね、フィーガス。
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