てぇてぇ保管庫

月夜斗

1 引っ越し

「今日は楽しかったね」


「だな、また来ようぜ?」


 深夜は真昼に答える。


 二人は中学からの馴染み、高校も大学もなんだかんだで同じである。

 今日は、二人で遊びと言う名のデート。誘ったのは深夜。


「んーそうだね」


 真昼は少し目をそらして答えた。


「すぐにはいけないかな。…深夜」


 深夜は足を止めた。


「…あたし引っ越すことになった」


「…は?まじで?大学は?」


 深夜は真昼の手をとり、引きとめる。


「わかんない」


 真昼は手を振りほどくとそう答えた。


「…そっか」


 それ以上に言葉は出てこなかった。



 その日、真昼と別れてから深夜は考えた。


  こ、告白するか?で、でもいや、どうしよう?




 次の日、学校で真昼に会うもうまく口を聞けない。


 引っ越しまでの残り日数も少なくなってきた気も関わらず、真昼は少し深夜の事を避けるようになった。


  あぁ今日か…気づけば、真昼の引っ越し当日になっていた。俺は自分の気持ちにうまく区切りをつけることができていなかった。最後に会っておきたい気持ちと最後に会ったらもっとつらくなりそうな気持ち。真昼も俺とは会いたくないんじゃないかと考えると胸が苦しい。


 さまざまな気持ちが交錯する。遠距離でもやれるのか。そもそも付き合えるのか。


 考えれば考えるほど胸が苦しくなってくる。いっそすべて忘れてしまいたいとベッドの上でうずくまる。


 すると部屋のドアがバンと開いた。


「おい、何やってる?」


 口調に似合わない柑奈の声。

 高校からの友達。真昼とも仲がいい。


「んだよ」


 ぶっきらぼうに返事をする深夜。


 すると柑奈がどすどすと歩いて入って来た。

 深夜は柑奈に首根っこ捕まれ持ち上げられる。


「真昼への想いはその程度だったの?」


「…でも「でもじゃなんだよ。好きなら他に何もいらないでしょ?」


「ッツ」


「早く支度しなさい」


 深夜はベッドから飛び起きる。しかしそこで時計が目に入った。


「いや…もう、間に合わねーよ」


 空港までここからどんなに頑張っても2時間はかかる。


「早くしろ」


 そう言い残して柑奈は部屋を出た。


「くそ、あと少し早く決断できてたら」


  それでも…もし間に合わなくてもいいそれでもできるだけの事はしよう。諦められない。

 

 そう思い急いで準備をして家を出た。


「凪沙!」


「ん?」


 深夜は柑奈の幼馴染の凪沙の家に来た。最速の移動手段はここしかない。


「頼む、俺を空港まで連れて行ってくれ。最後に真昼に会いたい」


 真昼は頭を下げる。


「…いやでもあいつ「いいから行くわよ」


 凪沙の言葉遮り、柑奈は凪沙にカギを投げる。


「はいはい。時間は?」


 凪沙はしぶしぶ鍵を受け取る。


「残り1時間半」


「1時間で行こうか」


 凪沙はそういうと家を出た。


「パピーの秘蔵っ子を貸していただきましょう。そうしましょう」


 ガレージを開け、眠っていた『友人』に火を入れる。


「んーいい音」


 深夜と柑奈が乗り込み。車は動き出す。


「凪沙、間に合うか?」


「バンブルビーなめんなー」


 凪沙はそういうと法定速度で走る。


 凪沙の家はありがたいことに高速の入り口は近い。


「おいおい。こんな安全運転じゃ間に合わないって」


 だんだんと深夜も焦り出してきた。


「ちゃんと背中つけたほうがいいよ?」


 後ろから柑奈の声。


 車はETCをくぐる。


 それと同時に車が火を噴いた。

 甲高い車の咆哮とともに体がシートに押し付けられる、


「ななな、凪沙さん?法定速度…」


「ここ、アウトバーン」


  んな、わけあるか!!


 突っ込みたくても声がでない。

  

  あっれーおかしいな黄色線は車線変更禁止なはずなんだけど。


 「タイヤそろそろ変えなきゃなー」


  さっきからキュルキュルゆーてますけど!?


 凪沙はスルスルと合間を抜けていく。

 柑奈は後ろから俺の様子を見て笑っている。


 わーきゃー言ってるうちに高速を降りた。


 高速を降りれば、空港はすぐそこ。


  あー下道最高。


 ターミナル前の道路で詰まると深夜と柑奈は車を降りる。


「んじゃ、終わったら呼んでくれ」


「おけ、深夜いくよ!」


 そういうと2人は走り出す。


 結局、空港へは1時間かからずについた。




「いた!」


 柑奈が指さす先に真昼がいた。


「真昼!」


 真昼は親とちょうど話していた。


「え、深夜?なんで…」


「なんでってお前…」


 深夜はモゴモゴと口籠る。


「…正直、遠距離とか無理だよな。フツーに俺もお前も既読無視するし用事が終われば電話ブチ切るし…でも!今言わなきゃ絶対後悔する!だから真昼。俺と付き合ってくれ」


 空港に声が響いた。


 深夜は頭を下げた。


 少しの間沈黙が流れる。


「えっと…真昼?」


 沈黙を破ったのは真昼のお母さん。


 深夜はビクッとする。


  あああああそういえば親いるじゃん。


 必死過ぎて気づいていなかった。


「あ、えっと何?」


 真昼は一泊おいてから返事をした。


「お母さんたちそろそろ行くね?」


「あ、うん。じゃあね」


  …ん?


「えっと深夜?言ってなくてごめんなんだけどさ。あたし、こっちに残ることにしたの。だから行くのは親だけっていう…」


 理解するのに数秒を要した。


「あ、でも一人暮らしだから今の家からは引っ越すんだけどね」


 深夜は下を向いたまま動かない。


「あちゃーこれ顔真っ赤でそれどころじゃないわ」


 柑奈がスマホで撮りながら覗き込んできた。


 さっきの告白のせいで空港の注目はこちらに集まっている。

 様々な視線が集中する中深夜はいてもたってもいられなくなって180°回ると来たほうに走り出した。


  え、じゃあ真昼はいるってこと?そういうことだよな?


  うれしい気持ちと恥ずかしい気持ちで死にそうだ。


  今、思い返すと凪沙に頼んだ時のあの反応絶対知ってただろ。てか、どこ行けばいいんだ?


 深夜はさっき車から降りたところに来たが当たり前のように凪沙の車の姿はない。


 プルルルル


 スマホがなった。柑奈からだ。


「さっき車乗ったところもしかしている?」


「…そうだけど、てか知ってただろ」


「ほーいじゃあそこいてー、んじゃ」


「ってお…」


 柑奈は電話を切る。



 柑奈は電話を切る。


「さて、真昼帰ろっか」


 真昼の方を向く。


 真昼は真っ赤になった顔を両手で隠していた。


「後から来た?」


「…うん」


 深夜が走り去ってからさっきの告白の事がぶり返してきたらしい。


「ほらほら行くよ」


 柑奈は真昼の手をひいて凪沙の元へ向かう。


  んー青春だねー



 凪沙と落ち合うと車に乗り込む。


「どうだった?」


「最高。ちゃんと撮れたよ」


 柑奈はスマホを振る。


「ちょっと!撮ってたの?」


 真昼は気づいていなかったらしく驚く。


「そだよー。結婚式で流そうね」


 ニヤニヤと柑奈が笑う。


「んで、深夜は?」


「恥ずかしくなって走って行っちゃった。最初降ろしたとこにいるはず」


「りょーかい」


 車がゆっくりと動き出す。


「はーにしてもやっと付き合ったのかお前ら」


 凪沙は運転しながら後ろに座る真昼に声をかける。


「いや、まだ実は返事してないんだよね」


 隣にいる柑奈が口を開いた。


「うぇ?そうなん?」


 驚きのあまり車が少し揺れた。


「ま、いっか。んでラウンジ前だよな」


「そー」


 深夜の回収へと向かう。


「ようお兄さん乗ってくかい?」


 窓を開け深夜に声を掛ける。


「乗らさせてもらいます」


 深夜を車に乗せて発進する。


 車の中に沈黙が流れる。後ろに座った深夜と真昼はそっぽを向いたまま外を見ていた。




「ついたぞ」


「え、家まで送ってくんないの?」


 優は凪沙に聞く。


「歩いて帰ってくれ」


 そういって深夜と真昼を降ろす。


「はぁ、わかったよ」


 深夜は家の方へと歩き出す。


「真昼もでしょ」


「っえ?うん」


 柑奈が真昼の背中を押す。


「さて、後は当人たちに任せましょう」


「だな。悪いことにはならんだろ」


 凪沙は車をガレージにしまうと家へと戻った。



「ちょっと話さない?」


 二人帰り道の中、先に沈黙を破ったのは真昼だった。


「ああ」


 近くの公園によると、二人はベンチに座る。


「言ってなくてごめんね。なんか気まずくて言えなかったんだよね」


「…はぁ。まじで死ぬかと思ったんだぞ」


 深夜は大きくため息をついた。


「そんなにあたしと離れたくなかったの?」


 真昼は深夜の手に手を重ね少し顔を赤く染めながら聞いてくる。


「悪いかよ…んで、答えまだ聞いてないんだけど」


 深夜はそっぽを向きながら聞く。


「んーどうしよっかなー」


「え、ここまできて断られる展開あんの?」


「あはは、そんなに焦んないでよ」


 そういって真昼は立ち上がる。


「はい!」


 真昼は深夜の前に立ち腕を広げる。


「えっとー」


「ここまで来てヘタルのはなしじゃない?」


 深夜も立ち上がり、柑奈に答えるようにハグをする。


「ほんとによかった。まじで。好き」


 深夜の目から涙が少しこぼれる。


  あー泣きたくなかったのになぁ。


「ちょっと照れるなー。あたしも大好きだよ」


 二人はしばらく抱き合っていた。





「おーええですなぁええですなぁ」


 柑奈は藪に隠れながらスマホで写真を激写する。


「バカ、静かにしてろばれるぞ」


 柑奈とともに凪沙も隠れていた。


「いーなー青春してて。ちょっとうらやましいなー」


 真昼はチラチラと凪沙を見る。


「…はぁ、邪魔しないうちに帰るぞ」


 凪沙は柑奈の手を取ると家の方に歩く。


「ちょ、引っ張らないで」









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てぇてぇ保管庫 月夜斗 @tukiyatoo

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