探偵助手は見つけない
扇 直角
プロローグ 探偵助手は忘れない
真実とは、嘘や飾り付けのない、本当の言葉である。
偽るものなど有りはしない。
飾り付けなど必要のない。
ただそこに平然と存在する事象を、ただただ流れるままに受け入れるためにある言葉。
だから私は、ふと思う。
受け入れるだけが真実と言うのなら、真実とは一体何者で有り、真実とは一体何様であるのだろうかと。
真実とは一体。
何なのだろうかと。
ふと、思ってしまったのだ。
「真実とは何か。私にも分からないわ。だけど、芹子ちゃんがそう思ったなら、それでいいんじゃないかな?」
ふと、思ったことを口にしたら。
それを聞いてしまったあなたは、そう答えた。
私は真実が悪い意味で言ったわけでも、その言葉が嫌いだから言ったわけでも無い事をあなたに伝えた。
ただ、ただ。
本当にふと、思ってしまっただけなのだ。
「何者だろうが何様だろうが、私にとってはあまり興味がない。私は、そういう心理的な要素を考えるのも聞くのも好きだけど、だからといって、あーだのこーだのとディスカッションをする気はないわ」
クスクスと嘲笑うように言うあなた。
私は、あなたに聞いてみた。
だとしたならば、真実って、一体何なんだろうか?
「さあ。私には、よく分からない事柄ね。国語の辞書とかになら、載ってるんじゃない?」
「そうじゃないよ。私が言いたい事は、そういうことじゃない」
「安心して、分かってるわ。芹子ちゃんが言いたいことは、分かってるつもり。だからといって、私が芹子ちゃんが満足する答えを持っていないことも、十分に分かって欲しい」
真実とは、気高く重い真理である。
真実とは、ただ唯一の事実である。
真実とは、揺るぎない答えである。
理解はしている。
そして納得も、渋々している。
「私は全てを重々理解した上で、芹子ちゃんの話を聞いてるのだから」
あなたの言葉に、私はさっきと同じ言葉を繰り返した。
私は別に、真実という言葉は嫌いじゃない。
だからといって。
唯一無二の存在が、傍若無人を働く様を見つめるのは。
私はそれが、たまらなく嫌なのだ。
「嫌悪感は、皆、知らず知らずのうちに持っているものよ。それは誰にも、自分でだって拭えない。不確かで不健全で不条理な代物なの。だからといって、真実がすべて正しくはない。嘘がすべて歪んでいる訳じゃない。ケースバイケース。そのときの状況次第ね」
あなたは、そう言った。
「例えば、あの双子」
性別という点を除いた一から十の全てが対照的である彼らまたは彼女らにとって、それが真実か否か。私に答えは分からないし、あの子達にも正解を判別できるはずがない。それでも彼女らもしくは彼らは、泥沼のような日々の中から、間違いと不正の交差をたどって、あがいてもがいて、答えを見つけようとしている。
一から十が全て等しいからこそ。
十から一を否定しているのかもしれない。
「例えば、あの探偵」
不明瞭かつ不揃いのピースを並べる彼にとって、誠実とはかけ離れた場所にいる彼にとって、真実なんてこれっぽっちも重要では無いのかもしれない。ましてやあの人は、真実などありふれたぼた山の一つとしか考えていない。真実とは、虚実とは、そして真理とは。そんな問いかけの答えに対し、彼は理解も納得もせず、ただそこにあるべき事柄を流れるままに受け入れるだけ。
この世界が壊れてかけていても。
彼は壊れる世界を前に、ただただ哀れに泣く事しか出来ないから。
「例えば、あなた」
あなたが望む真実と、皆が導く真実は、必ずしも同じであるとは限らない。
あなたが望まない真実もあるかもしれない。
あなたが欲しがる虚実もあるかもしれない。
「知らなきゃいけない真実なんてない。つかなきゃいけない嘘なんてない。大事なのはあなた自身が、どう事実を受け取ることができるか。まあ、大人の世界は曖昧で良いものよ。その曖昧さが毒にも薬にもなり、そして水にもなるのだから。きっとあなたにも、この曖昧さが分かる時が来るわ」
ふふふ、と。
今度は優しく笑うあなたに対して。
そのときの私は、上手に笑顔も言葉も返せなかったのを、今でもよく覚えている。
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