第488話 加護で心が丸わかり
「それはまだ変化させておらぬな。」
とレスタト兄さまが言う。
「え、そうなんですか?」
とっくに何かに変化してると思ったけど。
「彼女が獣神になってから、必要なスキルに変化させてもいいと思ってね。そもそも彼女はスペックが高いから、そのスキルがなくてもじゅうぶんに獣神になれる子だからね。」
とスローン兄さまが言った。
「ああ、確かに……。なんにしてもいいのであれば、必要な場面に変化出来たら嬉しいですね。今どんなスキルがいいかって聞かれても、正直思いつきませんし……。」
僕は考え込みながら言った。
「そうか……。私の子どもは、最近まで獣化の方法すら知らなかったのか……。獣人の子なら当たり前の生育過程だ。可哀想に……。」
ラーラさんが寂しそうに俯いた。
「アレックスどの、最近までうちの子と一緒にいたとのことだが、──ちなみに私の子どもの性別は、どっちなんだ?」
僕を覗き込むようにして尋ねてくる。
「あ、はい、女の子ですね。ラーラさんにとってもよく似ていて可愛らしいですよ。」
「そうか……。早く会いたいものだ。」
そう言って愛おしげに目を細める。
大好きな人との子どもなんだものね。しかも産まれてすぐに引き裂かれてしまった。
そりゃあ早く会いたいよね。レンジアも家族がいるとわかったら嬉しいだろうな。
「な、なんかこう……。先代勇者と獣神の子どもで、かつアレックスの代わりに神の使徒さまになる筈だったって、私やセオドアさまよりも、よっぽど勇者みたいね……。」
レンジアのスペックを聞いたヒルデが、なんだか落ち込んだ風にそう呟いた。
まあ確かに、英雄の中でも特に神に愛されて選ばれた存在って感じがするよね。
「うーん、でも、結局は僕が使徒になっちゃったことで、レンジアはその役割を果たせずに、獣神になる為の、獣人として大切な獣化すら出来ずにいたわけだから……。」
「そうね、むしろスペックは高いかも知れないけど、スタートが出遅れちゃった感じがするわよね。もちろんすぐに追いつけると思っての、獣化阻止だったんだろうけど。」
僕の言葉にミーニャが同意を示した。
「まあそうだな、あの娘ならすぐに追いつけよう。なによりアレックスの加護を得ているのだ。そなた同様成長は早いだろう。」
ガレシア兄さまがミーニャを見て言う。
「それよりも、お前だ。ヒルデだっけか?
アレックスの妻なのに、そのレンジアとやらよりも、アレックスの加護を受けていないんだな。愛が足らないんじゃないのか?」
と、ディダ姉さまが爆弾発言を投下する。
「え?どういうことですか?アレックスの加護って、半神としての、ってことですよね?
それってアレックスの愛とどう関係が?」
ミーニャが聞き捨てならない、といった表情で、ディダ姉さまに迫る。
「え、えっと、それは……。」
僕は説明しようと慌ててしまった。
「祝福は授けようと思えば授けられるものなのだ。例えばスキルしかりだな。だが加護は神や精霊の愛だ。特別に思う存在にしか与えることの出来ないものなのだ。」
「今オニイチャンの加護を得ているのは、一番がミーニャさん、次にレンジアさん、そしてオフィーリアさんですね。」
とキリカが補足してしまう。
「え……?
私って、アレックスの神としての加護を得られてないの?オフィーリア嬢や、そのレンジアって子は得てるのに……?」
うつむいたヒルデの表情がどんどん険しくなってくる。
「そ、それはね!?その……。」
「まあ、オニイチャンはヒルデさんが好きで結婚したわけじゃないですからね。気持ちがないから加護がないってだけです。つまりレンジアさんとオフィーリアさんのことは、ちょっと気になってるってことですね。」
「キリカ!それを言ったら……!」
「ヒルデさんにオニイチャンの加護がついてないってことを、ディダ姉さまが話してしまった時点で、隠す意味ってありますか?」
キリカがしれっとそう言った。
「そ、そうかも知れないけど……。」
僕が他に誰を気になってるのかまでは、言わなくて良かったんじゃないのかなあ!?
「むしろ、ヒルデさんは知っておいたほうがよいと思います。オニイチャンの加護があるかどうかは、英雄としての変化に影響がありますからね。せっかくオニイチャンと結婚したんですから、加護を受けられるように、これから頑張っていただかないと。」
キリカはそう言ってニッコリと微笑んだ。
「私だけ……、私だけ……。」
ヒルデは何やらそう、ブツブツと繰り返しながら、ずっとうつむいたままだった。
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