英雄の本格育成開始

第461話 母さまに助けを求めてみる

「オフィーリアさんって、やっぱりアレックスのこと、好きなのね……。」

 遠い目をしてヒルデがつぶやいた。

 え、今そこ、気にするとこ?


「ね、ねえ!あんた、これ以上、奥さん増やしたりしないわよね!?」

 なんだか切羽詰まったような様子で、ヒルデが僕に詰め寄ってくる。


「そりゃもちろんだよ。僕はたくさんの女性を愛せるとは思えないし……。」

 そもそもヒルデのことだって、予定外のことだったからね。とは言わないけど。


「アレックス、神は複数伴侶を持つなんてことは、いたって普通のことだぞ?」

「そうよ。あなたも神格が上がれば、たくさんの愛を持つようになるわ。」


「え。そ、そういうものですか?」

 神さまとしての僕のレベルが上がったら、僕は浮気者になっちゃうってこと?


 神さまである兄さまたちの言葉だし、実際そういう神さまが多いのは神話でも知っているから、そう言われると……。ううん。


「アレックス。私はそうなったとしても気にしてないから。だけど、私が1番だってことだけは、忘れないでね?」

 ミーニャがそう言ってニッコリと微笑む。


「それはもちろんだよ!」

「私もわかってます、ミーニャさん!」

 ──ヒルデ、なんで敬語?


「アレックスの学園での様子は、水鏡でいつも監視してるからな。」

「いつも腹が立つのよねえ!」


「正直アレックスがとめるから、我慢してやってるってだけだしね、僕たち。」

「正直我らが直接手をくだしたほうが、手っ取り早いのである!」


「──だ、そうだ、アレックス。」

 ディダ姉さまがニッコリと微笑む。

 僕を心配してくれてのことだと思うけど、どうしてこう、うちの兄弟は過激なのかな。


 母さま!兄さまたちをなんとかしてください!ありがたいけど、困ります!リシャーラ王国を潰す前提で話を進めてて!

 僕は念話をつないで母さまに呼びかけた。


【あらあら、大変そうねえ。

 あの子たち、そんなにあの国を嫌っていたのね。知らなかったわ。】


 母さまのおっとりした声が聞こえてくる。


 僕を気にかけてのことだから、ありがたいですけど、なんかもう、滅ぼす前提で考えている気がして、ミーニャもヒルデも、すっかり怖がっちゃってますよ……。


 確かにルーデンス王太子たちのやっていることは目に余ります。

 だけど、僕らの出身国でもあるので……。


 故郷がなくなるのは見過ごせないです。

 兄さまたちには思い入れがないから、気にならないんでしょうけど。


【まあ、そうねえ。そういう意味では、私にとっては思い入れのある国だから……。

 わかったわ、セオドアと一緒に行こうと思っていたけど、これから向かうわね。】


 はい、すみません……。


 ほどなくして、母さまが天界から降りてきて、宴会場の扉を開けてやってきた。それを見たミーニャが、思わずヒュッと息を飲む。


「母さま、いきなりお呼びたてしてしまってすみません。」

 僕は椅子から立ち上がった。


「お久しぶりね、ミーニャさん。アレックスと結婚おめでとう。あなたがアレックスの奥さんになってくれて、とても嬉しいわ。」


 母さまはそんなミーニャの様子に気が付いて、ニッコリと微笑みながら、僕の隣りに座るミーニャに近付いていった。


「ほ……、本当に、オリビアさまなのですね……。お元気そうでなによりです。」

 ミーニャは何かを恐れたような、感動して泣きそうになっているような、複雑な表情で母さまを見ていた。


 ミーニャは、母さまに先立たれて泣いていた僕のそばにずっといてくれたからね。

 母さまは亡くなった人だという意識が、この中で誰よりも強いと思う。


 本当は現人神として僕を生む為に地上に降りてきていて、肉体を手放して神に戻っただけで、厳密には死んだわけじゃなかったということを僕から説明されても、死人が現れたっていう気持ちになっても不思議じゃない。


 だけど、ミーニャはとっても母さまから可愛がられていたから、母さまが死んで寂しがっていたのはミーニャだって同じだったし、会えて嬉しいって気持ちもあるんだろうな。


「それと、あなたがヒルデさんね?

 アレックスの母です。はじめまして。」

「ひゃ、ひゃじめまひてっ!」

 ヒルデ、噛んでる噛んでる。落ち着いて?


 ヒルデはバッと椅子から立ち上がると、両手を揃えた直立不動の体勢で、母さまをまっすぐ見ることが出来ずに震えていた。僕はそんなヒルデの肩にそっと手を乗せる。


 まあヒルデは僕が元貴族だってことは知ってるし、つまり母さまも生前は貴族で、かつ今はすべての神々の母であり、人類を生み出した生命と予言のアジャリべさまだからね。


 緊張するなってほうが無理だよね。

 母さまはそんなヒルデとミーニャの様子を見て、可愛い娘が2人も出来て嬉しいわあ、とのんびり頬に手を当てて笑った。


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