第444話 ルーデンス王太子vsオフィーリア②
そしてオフィーリアを呼び出したのだが、オフィーリアはその呼び出しを無視した。
しびれを切らしたルーデンスは、直接オフィーリアを人気のないところで呼び止めた。
周囲に人気はなく、オフィーリアとルーデンスの2人だけ。この機会を待っていた。
ここならどんな会話をしても、誰かに聞きとがめられることもない。
王太子の直接の呼び出しを無視し、こうして本人が訪ねてきたということは、その行動に問題があるとして、王族にたしなめられるということを意味する。
王族の足を直接向かわせるなど、あってはならないことだからだ。貴族であればなおのこと。貴族はすべからく王族の臣下であり、呼び出されて無視をすることはかなわない。
そうして、王太子の直接の呼び出しを無視し続ける伯爵令嬢に、苦言をていしてやるつもりでいた。だがオフィーリアの反応は、まったくルーデンスの予想とは違った。
「応じる義務がないと感じたからですわ。」
「応じる義務がない……だと?
貴様は何を言っている!」
オフィーリアは肩にかかった髪を、はらりと右手でどけて、ふう、とため息をついた。
「ここはルカリア学園の学園内。
おわかりですよね?」
「それがどうした。」
「貴族であれ王族であれ、みな平等に扱うことを校風としております。本来であれば、殿下とお呼びすることもおかしいのですわ。リシャーラさん、とお呼びするのが正しいもの。」
確かに生徒も教師もリシャーラさん呼びをしてくる。将来の側近候補たちだけは、ルーデンスさま呼びをしてくるが。
「ですがこうして2人きりでしたので、殿下とお呼びさせていただきましたが、ここでは王族の臣下としての義務は存在いたしませんもの。ただそれだけのことですわ。」
「なんだと……!?」
「ですので今回の呼び出しは、同じ学園内で学ぶ、友人ではない方からのもの。ですので応じる義務がないということです。」
左腕に教科書を抱えたまま、ニッコリと美しく微笑むオフィーリアの姿に、ルーデンスの怒りは最高潮になる。
「そのようなことを申して、そなたの父親がどうなるのか、考えたことはないようだな。
王族に逆らうのがどういうことか、今ひとつわかっていないようだ。」
「ルーデンス殿下にそのような権限は、まだおありではないのでは?」
オフィーリアの言う通りだった。王太子の自分にはまだなんの権限もない。
「それとも、学園内で女生徒に無視をされたから、その親に罰を与えてくれと、まさか国王さまに願い出るおつもりですか?」
貴族が平民に対して、であればいくらでもそういうことはある。ルーデンスの取り巻きたちなどは、よくその手を使って平民に危害を加えることがあるのだから。
だが王族となるとそれが難しい。王は公人であり、ちょっとした願い事であっても、謁見の間にて願い出なくてはならない。
他の大臣たちも聞いている中で、そんな子どもじみた願いを伝えれば、大臣たちの嘲笑と、国王のため息を貰うことになるだろう。
「ぐっ……。」
「ご用事は以上でよろしいでしょうか?
それであれば、わたくしのほうに用事はございませんので、これで失礼させていただきますわ。ごきげんよう、殿下。」
オフィーリアがルーデンスの横を通り過ぎようとした瞬間、ルーデンスが腕輪をオフィーリアの腕にはめようとした──だが、それと同時に、腕輪が遠くにふっとばされる。
カランカラン……と音を立てて、廊下にころがる腕輪。オフィーリアの左右に、美しい若い女性2人が、武器を構えて立っていた。
「──王家の影!?それも2人もだと!?」
ルーデンスにも王家の影が護衛としてつけられているが、あくまでも1人だ。
王家の影は本来、政務を全うする人間につけられるもので、ルーデンスにつけられている影は、あくまで国王によって、護衛が入り込めない場所──例えばルカリア学園などでの護衛を担当する為につけられている程度。
なので常時1人しかいない。にも関わらずオフィーリアにつけられた影は2人。
これは王族の血を引くものとして、王家の影を持つ者が、ルーデンスよりもオフィーリアの命を尊んでいるということになる。
そんなことがあってたまるものか。
自分は王太子なのだ。他の誰よりも、若い王族の中で尊ばれるべき存在。──それを傍流の娘よりも低い扱いだなどと。
許されて良いことではなかった。だが目の前の事実が、王家の影を所有し、命令を下す立場の王族にとって、自分よりもオフィーリアが大切で、支持していると示している。
にわかには信じられず、ルーデンスはしばし思考が停止していたことに、しばらくしてようやく気が付いたのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます