第443話 ルーデンス王太子vsオフィーリア①
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「──オフィーリア嬢。」
オフィーリア・オーウェンズ伯爵令嬢は、聞きおよびのある声に、紐でくくってまとめた教科書を胸に抱えたまま振り返った。
「ルーデンス殿下、ごきげんよう。」
オフィーリアはルカリア学園の制服のスカートをつまんで、美しくカーテシーをした。
ルカリア学園の廊下が、一気に王宮の廊下へと印象を変えたかのように、リシャーラ王国王太子、ルーデンス・ソバト・リシャーラは感じた。それほどまでに美しい仕草。
オーウェンズ伯爵家に、過去に王女が降嫁したのは、ルーデンスの祖父の時代だが、王女教育を施されていないとは思えないほど、オフィーリアの所作は洗練されていた。
娘が王妃になることを願った父親により、最も高貴な伯爵家の名にふさわしいよう、大勢の家庭教師を派遣されて教育を施されたオフィーリアは、貴族令嬢の中で最も王妃候補の可能性が高いと言われてきた令嬢である。
だがオーウェンズ伯爵家側が断ってきたことにより、現在はその妹たち、または他の令嬢が候補に上げられている。
「なぜ、私の呼び出しに応じないのかな。」
「なぜ……ですか?」
オフィーリアは不思議そうに首を傾げた。
その仕草がザラ王女に重なって見える。
本来であれば、現在ルカリア学園に留学している、リーグラ王国第1王女、ザラ・アウラ・スティビアをと考えていた。
ルーデンスも話が進んでいるものと考えていた。だが蓋を開ければザラ王女は既にナムチャベト王国に輿入れが決まっていた。
本来王族同士の婚姻は、事前に打診をして了承を得た上で、本当の申込みを行うものだが、リーグラ王国はいつも決まった国々の間で順番に輿入れ先を決めている。
当然次はリシャーラ王国であると、国王エディンシウム・ラハル・リシャーラは考えていたが、リシャーラ王国はナムチャベト王国よりも歴史が浅く、その分ナムチャベト王国よりもリーグラ王国と交流が少ない。
ナムチャベト王国のように、事前に王女たちと交流していれば、まだごく僅かな可能性があったかも知れないが、ルーデンスの性格であればそれも難しかっただろう。
ザラ王女は聡い女性の為、しらばらく双方と交流するうちに、ルーデンスと、ナムチャベト王国王太子、スレイン・アシット・エイシャオラのどちらかを選べと言われたら、間違いなくスレインを選んだからである。
人品卑しからぬスレイン王太子とルーデンスでは、もとより勝負にならなかったが、ルーデンスの周囲は、ザラ王女との結婚が本決まりであるものとして扱っていた。
すっかり大国の姫を娶るつもりでいたルーデンスは、それがもとより叶わぬことであったと、やがて知ることとなった。
知らぬ間に喧伝されていた、婚約失敗の噂によって、大臣たちに残念なものを見る目で見られたり、王宮職員たちに気を使われるそぶりをされるという恥をかかされた。
自身の父親が先走ったことが原因であるのだが、ルーデンスには預かり知らぬこと。
結果として女性に振られたという憎しみだけを、相手に対して募らせる結果となった。
そこにきて、オフィーリア・オーウェンズ伯爵令嬢からも、結婚の申込みを断られた。
既に婚約者を降りた筈の、元キャベンディッシュ侯爵家令息、アレックスが原因であることは明白であるとルーデンスは考えた。
気に入らない。アレックスも、──オフィーリアも。自分は将来この国を治める人間である。本来王族の婚姻の打診のほうが、優先されるべき事柄であることは、貴族たちの間で熟知されている。
にもかかわらず断られたのだ。大国の姫は娶れなかったが、国内の貴族女性であれば、当然最も美しく賢いのはオフィーリアだ。
ルーデンスはオフィーリアでも、まあ悪くないなと思っていたし、当然王妃になるものだと考えていた。だが結果としてどちらも手に入らないとわかった瞬間。
ザラ王女に対する憎しみも、まとめてオフィーリアへと向いた。目の前の理知的な少女がザラ王女の姿へと重なる。
自分が抱く筈だった体なのだ。手に入れて当然の物だったのだ。だからこれは当然の罪だと、ルーデンスは考えた。
そう、これは罰なのだ。王族をあざけった罪を、その身でつぐなうのは当然のこと。
それが貴族であるのならなおのことだ。
不敬罪で殺されるようなことは、最近こそないものの、リシャーラ王国では、これまで何度も不敬罪で貴族を処罰してきている。
だからこれは当然の権利だと考えていた。
我が国の王太子をないがしろにするなど、あってはならないことを、この女はしたのだから。にも関わらず再三の呼び出しを無視。
人前では優しく紳士な王太子殿下であるルーデンスの怒りは、その微笑みの下でふつふつと煮えたぎっていたのだった。
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ようやく少し体調がよくなりました。
休みも1日寝てしまって何も出来ず……。
今日は4話更新です。
間空きまして申し訳ありません。
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