第397話 隠しスキルの可能性

「ガーティアは、内容を秘匿し、強奪を試みるものを攻撃します。簡単には奪えません。

 秘匿事項を伝達するのに、最適な魔法だと思っています。」


「……攻撃能力を備えた無属性魔法!?

 それは凄いぞ!?」

 バウアーさんが再びソファーから立ち上がると、僕にグイッと迫ってきた。


「あくまでも攻撃をしかけられた時の反撃ですので、積極的に攻撃は出来ませんよ?」

 思わずのけぞりながらそう答える。


「それでも凄いぞ。攻撃も回復も出来ない、戦闘の役に立たないから、無属性魔法は魔法の数に数えられないんだからな。」


「……そうね。ガーティアは目の前で見るだけじゃなく、慎重に解析が必要ね。」

「見ただけじゃ、重ねがけされた構造が確認出来なかったからな、凄い魔法だ……。」


「販売するのはそれ以降にしてちょうだい。

 リーティアとミーティアは目視で解析が出来たから、売ってもらって構わないわ。魔法登録証を作らせるから、少し待っていて。」


「ありがとうございます。」

 やった!認めてもらえたよ!

 これで僕が生み出さなくても、作成販売出来る商品がひとつ増えたぞ。


「……ところであなたは、どうして無属性魔法の研究を始めたの?」

 エリクソンさんが紅茶を一口飲んでから、僕の目をじっと見つめてそう尋ねてきた。


 魔法の登録だけのつもりで来たから、そんなことを聞かれると思っていなくて、僕は思わず固まってしまう。


 ど、どうしよう?

 そんなこと聞かれると思ってなかったよ。

 だって、そもそも研究して開発した魔法ってわけじゃないし……。


【オニイチャン、さっき私と話したことをそのまま伝えてみてはどうですか?】


 さっき話したことって?


【無属性魔法の立ち位置について、です。】


 あ、そうか。

 僕のもともと持ってる無属性魔法についての知識と、日頃思っていたことを組み合わせたら、なんとかいけるかな。


「そうですね。僕はそもそも魔法使い家系に生まれたのですが、魔法スキルを手に入れることが出来なかったんです。ですが、魔法についての勉強は幼い頃からしていました。」


 これは本当のことだ。魔法の歴史とか種類とかについては、家庭教師からずっと学んできたからね、ある程度の知識はあるんだ。


「その中でも、魔法の歴史や、使用方法を教える、ルカリア学園の授業でも、魔法の数にカウントされないという無属性魔法に注目しました。いったいそれはなぜなのか。」


「戦闘に使えない魔法は、重要視されないからな。生活魔法なんかがそれだ。あれは無属性魔法の最たるものだが、汚れをキレイにすることしか出来ない、もらって嬉しくないスキルの代表とされているんだ。」


「はい。ですが商人の取引に使う契約魔法、秘密保持契約魔法や、奴隷契約に使う奴隷紋は、無属性魔法の応用になります。」

「契約魔法の必要な場面はとても多いわ。」


「例えば契約魔法に使うインクのように、必要かつ、いざ新しい魔法が開発されると、国家のみならず、世界全体に広まるものでもあるのが、無属性魔法であると思うのです。」


 僕はキリカの言葉をそのまま伝える。

 それを聞いたバウアーさんとエリクソンさんは、僕の目を見てコックリとうなずいた。


「長い目で見れば、国家に莫大な利益をもたらすものが、無属性魔法であるにもかかわらず、評価が低いのが実情です。」

「だから研究員も少ないんだ。」


「無属性魔法はこの世になくてはならないものにもかかわらず、魔法使いの間でも、世間からの評価においても、地位が低いのです。

 ですがそんな無属性魔法だからこそ、魔法の使えない僕は可能性を見出しました。」


「実際新しい無属性魔法を生み出した人たちの中には、通常の魔法スキルのない人間がたくさんいる。不思議なことだがな。」


「僕は、それが隠しスキルなんじゃないかと思っています。ステータスが確認出来るスクロールは、スタミナの確認出来るものとそうでないものが存在します。」


「──隠しスキル?」

「スタミナのステータスが確認出来るスクロールは、割と近年発見されたものになりますよね。同じように知られていないステータスがあるとすればどうでしょうか?」


「そうか……。今でこそスタミナは、確認出来るステータススクロールが発見されたが、昔は見ることが出来なかったものだ。」


「まだ発見されて100年もたたないわ。

 それまでスタミナなんてステータスの存在を、みんな知らなかった。」


「はい、それと同じで、隠しスキルを見られるステータススクロールというものが、存在するんじゃないかと思っています。」


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