第325話 ロシュガー王国の悲惨な末路・その2
『……あー。
アレックス、ブレッシュ王国って知ってるか?俺たちは聞いたことがないんだが。』
リニオンはアレックスに、ブレッシュ王国について念話で質問をした。
その間にも、ブレッシュ王国の兵士たちは縄でくくられ、ひとつにまとめられている。
ボコボコに腫れ上がった顔の兵士たちが、ひとつにくくられてぶら下げられるさまは、まるで一房の真っ赤なブドウのようだ。というか、遠目に見るとでっかいブドウだ。
しばらくしてブレッシュ王国は、巨大なブドウをぶら下げて飛んでくる大量のドラゴンの存在に気がついた。そしてそれはやがて、巨大なブドウなんかでなく人であることも。
そこからは阿鼻叫喚。泣き叫び逃げ惑うブレッシュ王国の人々。ドラゴンの羽ばたきで人々は空に舞い上がり、炎のブレスで建物が焼かれ、崩れ落ちてゆく。
もとより戦争で弱い他国を乗っ取り、植民地化することで楽な生活をしようとするような国だ。国王を命をかけて守ろうと考える兵士は1人もいなかった。
兵士たちはドラゴンの姿を見ると途端に逃げ出した。あっけないほどすぐに王宮に攻め入られ、なすすべなくドラゴンの軍団に王宮を明け渡すこととなった。
ブレッシュ王国国王は、命おしさにギアホースの粗悪品の購入元が、ロシュガー王国であることを簡単に吐いた。
「あんたの国、戦争大好きなんだってな。自分はさんざん他国を攻め落としておいて、自分だけ助かろうってのか?……俺たちドラゴンは卑怯者が特に嫌いでな。」
「ひいいいいぃ……!
たすけ!たっ、たすけ……!」
腰が抜けて立てない国王は、這いずり回ってそれでも逃げ出そうとあがいた。
「お前の首は見せしめにさらす。
二度と俺たちの国に攻め入ってくる馬鹿が出ないようにな。」
「リニオン、その前にそやつは八つ裂きにしてやろうぞ。今まで苦しめられた国の人々のぶん、こやつが苦しまねば、死んだ人たちも浮かばれまいて。」
「あー……。じゃあ拷問かあ。俺得意じゃねんだよなあ。ルッカータ、あとは任せたわ。
殺してくれって言っても、殺さずに苦しめてから首を落とせ。」
「かしこまりました。
とりあえず、目玉をほじくりましょうか。
さあ、お楽しみの時間ですよ?」
先ほどまでウッキウキで戦っていたバルトロメオと、同じ表情でルッカータが笑う。
「嫌だ!嫌だああああ!!」
叫びも虚しく、国王は連れ去られた。
バルトロメオは、キュレールの進言により人間の国々に通達を出した。
ロシュガー王国が自国の知的財産を侵害した件で処罰する旨、各々手出し無用と。
バルヒュモイ王国の宣戦布告により、ロシュガー王国は慌てて各国に支援を求めたが、どの国も証拠さえないものの、ロシュガー王国が偽金を作っていることは把握している。
偽金の件でロシュガー王国に煮え湯を飲まされていた国々は、ロシュガー王国を罰するよい方便が出来たことに喜びはしても、手助けしようとはしなかった。
ロシュガー王国に加担するということは、国際社会から犯罪国家の手助けをする国という烙印を押されて、締め出されるということだ。ただ戦争に手を貸すのとはわけが違う。
ライバル国の貨幣価値が下がったり、偽金を手に入れることで、政治的メリットもあったことから、黙殺している国も多かったが、表立って手を貸すほどのメリットはない。
これが仕掛けたのが他の国であれば、ドラゴンの国を落とすメリットはデカい。複数の大国が手を組めば、落とせる可能性もあるとして、共同戦線が組まれたことだろう。
だが残念なことは、彼らがロシュガー王国であったということだ。大国ほどロシュガー王国に狙われ、偽金の被害にあってきた。
小国であっても偽造しやすい国は、やはりロシュガー王国に狙われた。
今まで自分たちがしてきたことのツケが回って、ロシュガー王国は孤立した。
困ったロシュガー王国はギアホースの粗悪品を作らせていた貴族を売った。
貴族が単独でやったこと。その者は既に処罰を受けた。必要なら首を差し出す、と。
あるのはギアホースの粗悪品を、ブレッシュ王国がロシュガー王国の貴族から購入したという証拠だけ。人間の国が相手であれば、証拠がない限りここで手打ちとなった筈だ。
──人間相手であるならば。だがこのことに、ドラゴンたちはブチギレた。ドラゴンに理屈も小手先も政治も通用しない。
あるのはただ、卑怯者を許さない。
その一点においてのみ。
かくしてロシュガー王国は、その日のうちに地図から姿を消したのだった。
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