第324話 ロシュガー王国の悲惨な末路・その1
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「敵襲だ!」
まだ日が昇るか昇らないかという時間。リニオンは王宮の自分の部屋で眠っていた。
「うるっせえなあ……。」
騒ぐ仲間たちの声や足音で目を覚まし、外がまだ薄暗いことに気が付いた。
王宮内が騒がしいのはわかっていたが、二度寝を決め込んで再び目を閉じる。
そこに兵士がバン!とドアを開けて飛び込んで来た。
「リニオンさま!起きて下さい!
大変なことが起きています!」
「るっせえなあ……。敵襲だろ?
ルッカータがいれば問題ねえだろうが。」
「それが……。バルトロメオ陛下が先陣を切って飛び出されまして……。」
「はあああ!?じーちゃんが!?」
思わずリニオンは飛び起きた。
「どこだ!案内しろ!」
「こちらです。申し訳ありません。我々ではお止めできず……。」
リニオンは兵士の案内で、空を飛んで祖父であるバルトロメオを追いかける。
「いくらインフェルノドラゴンったって、自分の年齢考えろっつーの!」
ドラゴンといえども老いれば弱くなる。
ましてやここ最近歯の抜け替わりもなくなってきたと、先日聞いたばかりだ。
ドラゴンは他の竜種同様、牙が定期的に抜け替わる種族だ。だが年を取ると抜けるばかりで新しい歯がはえてこなくなる。
そうなった時は目もだんだんと見えなくなり、死に近付いている証拠とされている。その点でバルトロメオは明らかに老いていた。──万が一にも国王が倒されるのはまずい。
そう思って急いだリニオンだったが。
「な、なんだ?ありゃ……。」
バルトロメオがやけに楽しげに、空中を縦横無尽に飛び回っている。
「ふはははは、力が……、力がみなぎってくるぞぉ!さあ!死にたいやつからかかってこい!“神に最も近い疾風”と言われたこのワシの力、とくと目に焼き付けるがいい!」
「うわあああああっ!!
バルトロメオの羽ばたきひとつで、ギアホースの粗悪品に乗った、空中に浮かんでいた兵士たちが、一気に地面に叩きつけられる。
恐らく粗悪品なせいで、浮遊力が低いのであろう。いかなインフェルノドラゴンとはいえ、羽ばたきひとつで落とされるほど、自分たちが作っている製品は弱くはない。
「リニオンさま!止めて下さい!先程からバルトロメオさまがあの調子で……。」
「止めるって……。
あぶねえからじゃねえのかよ!」
羽ばたきひとつで人間たちを撃墜しては、魔法をくらわせるバルトロメオ。わざわざ人型になって戦闘を挑んだりもしている。
ましてや魔法が放てる魔法剣や、魔法槍を携えた兵士たちを、人型に変化し、もろともせずに拳1つで叩きのめすなど、死にかけた老人のやることではないのである。
「人型になった時の姿が、俺と同じくらいムッキムキになってねえか……?
どうしちまったんだ?じーちゃん。」
「おそらく創生神さまより祝福と加護をいただいてからかと……。」
「アレックスの祝福と加護?」
「リニオンさまはご存知なかったと思いますが、あれ以降、バルトロメオさまは、夜な夜な飛び回っては、体を鍛えているのです。」
「健康じゃー!最強じゃー!と嬉しそうにおっしゃりながら……。
リニオンさまは眠りが深いですからね、気付いてないだろうとは思っておりました。」
「嬉しそうな国王さまを、誰もお止めすることが出来ず……。」
はしゃぎまくるバルトロメオを、もはや誰も止めることが出来ないでいた。
バルトロメオ1人にいいように弄ばれ、ドラゴンの国だなんて聞いてない……!とヒンヒン泣いている兵士たち。
「じーちゃん!何やってんだよ!」
人間たちを、羽ばたきで作った小さな竜巻で巻き上げて遊んでいる祖父に、リニオンが飛んで行って話しかける。
「おお、遅いぞリニオン!こやつらはどうもよその国からこの粗悪品を買ったようじゃ。購入元は国に帰らんとわからんと言うから、こやつらの国を落とすぞ。」
「ああ?」
「ギアホースの偽物を買ったばかりでなく、バルヒュモイに攻め入ってきたのだ。
見せしめに人間の国をひとつ潰す。」
「じーちゃん、いつからそんな好戦的になったんだ?別に構わねえけどよ。」
「バルトロメオさまは元からこういう性格ですよ。静かだったのはここ最近の話です。」
バルトロメオと付き合いの長い、側近のキュレールが言う。
「老いを感じるとおっしゃってお静かでしたが、やはりこのほうがあの方らしい。」
キュレールは元気なバルトロメオに、嬉しそうに目を細めている。キュレールがリニオンを見て、若い時のバルトロメオさまソックリですなあ、と言っていたことを思い出す。
「さあ!皆のもの!ドラゴンの力を知らしめるぞ!敵はブレッシュ王国!
草一本残さず焼き尽くすのだ!」
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