失われたドラゴンの大陸

第310話 アイテムボックスの調査・その1

「あの娘っ子か。人間にしてはまあまあやりよる。わらわには及ばんがの!」

 レンジアと会ったことのあるミルドレッドさんは、彼女の実力がわかってるみたい。


「うん……。その……。僕の元婚約者であるオフィーリア嬢についてた王家の影の1人を、オフィーリア嬢が僕につけたんだ。

 ──レンジア!出てきて!!」


 呼ばれた途端、スッと目の前に現れて、僕にかしずいてくるレンジア。

「お呼びですか、アレックスさま。」


「彼女がレンジア。オフィーリア嬢がつけてくれた、僕の護衛だよ。ずっと叔父さんにも内緒で僕を守っていてくれて……。そして彼女自身、英雄候補者の1人なんだ。」


「俺に内緒で護衛?まさか、お前が我が家に来てからたびたび人の気配が一瞬したと思ったら消えていたのは、そういうわけか?

 ……こんな幼い娘が俺の目を欺くとは。」


 さすがは王家の影か、と叔父さんが呟く。

 なんだかんだ王家の影としての実力だけはあるんだよね、レンジアは。他がいろいろとアレではあるんだけど……。


「英雄候補者かつ、王家の影か。

 確かに戦力ではある。

 キリカは彼女を連れて行けと?

 こちらの事情は知っているんだな?」


「うん。そうしたほうがいいって。」

「わかった。家には護符を貼っておこう。

 レンジアさん、あんたもついて来てくれ。

 これから時空の扉の調査に向かう。」


「お願い出来る?レンジア。」

「アレックスさまのお願い……。

 わかった。役に立つ。」

 レンジアがこくっとうなずいた。


「ルール改定!レンジアとミルドレッドさんを、時空の海に出入り可能とする!」

 これでレンジアもミルドレッドさんも、時空の海の入口から入ることが出来るね。


 それぞれのアイテムボックスに通じる時空の扉は、制限をかけていないから、それこそ誰でも出入り出来るけど、おおもとの時空の海の鉄の扉は、外から入れない仕様だから。


『キリカは今回お留守番ね。出た先が危ないかも知れないし。叔父さんにミルドレッドさん、それにレンジアもいるから、これ以上人数を増やすとちょっと多過ぎるし。』


【そうですね。アイテムボックスは狭い部屋も多いですし、逃げなくてはいけない場面で人数が多いのはあまりよくないと思います。

 私はここに残りますね。】


 そんなわけでキリカは今回家に残ることになった。1人で残すことになるけど、追手は僕の居場所しか探せないわけだし、近くにいないほうが安全だろうと叔父さんも同意。


 時空の海の鉄の扉を出すと、叔父さん、続いて僕、ミルドレッドさん、レンジアの順番で中に入ったんだけど、レンジアが不思議そうに空中を見上げて首をかしげている。


「どうしたの?レンジア。」

「いつもこのあたりのどこかでオデコをぶつける。今日はぶつからない。」

 ああ、そういうことか。


「今日からレンジアも、また中に入れるようになったからね。もう入口でオデコをぶつけることはないと思うよ。」

「理解。」


 魔道昇降に乗って、84番目の扉の前に降り立った。魔道昇降が出来る前に時空の海にもぐっていたレンジアは、魔道昇降を不思議そうに眺めていた。


 84番目・肉屋(肉たくさん)。

 ということで、まずは84番めの扉に出てみることにする。


「……ここって、魔物の死体置き場?」


 物凄い血の匂いにクラクラする。バラバラにされた魔物の残骸のようなものが打ち捨てられていて生々しすぎる。自分の足元に広がる血だまりに、思わずゾッとした。


「ここは……。おそらく屠殺場だな。

 魔物に限らずたくさんの動物なんかを解体して出荷する工房だな。」

 と叔父さんが言った。


 キリカ!ここはどこ!?


【ビンブツという小国です。

 市が3つしかないようですね。】


「叔父さん、ビンブツっていう、市が3つしかない小さな国みたいだよ。」

「そんなに小さな国じゃ、直通の船便は望めないな、次に行こう。」


 85番目・錬金術師(薬など多数)。

 たくさんのアイテムをかきわけて、85番目の扉の外に出てみることにする。


 研究室のような、薄暗い部屋だけど、人の気配がなくて、ずっと誰も使っていないかのようだった。器具にはホコリがかぶってる。


 人の気配がなくて、だけど外には誰かが通るような音もする。僕らはとりわけ静かに周囲の様子をうかがった。すると、ひとつだけホコリのかぶっていない箱に目が留まった。


 蓋を開けると、中には一冊の本が入っていた。それには鎖が巻き付けられて開かないようになっている。僕はそれをなんとかしようとしたけど、錆びた鎖は外れなかった。


 鎖自体がチャラチャラ音がして、それが更に木箱に当たって、ガチャガチャ音がするから、そっとしか触れられないから余計に。


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