第307話 新しい称号

「叔父さん、リニオンさんたちの為に、新しい土地を用意するっていうのはどうかな?

 試してみないとわからないけど、たぶん。

 ……出来ると思うんだ。」


「……なるほどな。」

 もちろん僕のスキルでってことだ。

 それに思い至った叔父さんが、スキルについて語らずに、思案している。


「ドラゴンは人間にとって一番の脅威だ。それが遠い土地にまとめて住んでくれるというのであれば、それにこしたことはないな。

 俺もそれには賛成だ。」


「いなくなることで問題が発生したりはしないかな?ドラゴンは他の魔物の脅威になっていたりもするでしょう?たとえばスタンピードが起きたりはしないかな?」


 僕は少しだけそこが気になるんだよね。人里離れたところには魔物が多く住んでいる。

 そこに住む魔物たちが、ドラゴンがいることで牽制しあってたのが、いなくなったら。


「もちろんそれにより、既に生態系に組み込まれた地域では、他の魔物が活発になる可能性は大いにあるが、ドラゴン以外なら人間でも数が集まれば倒すことが出来るからな。」


 可能性がある土地は限られているから、ドラゴンが移動した時点で、その森なり山に調査に入れば、事前に動きを察知することが出来るからな、と叔父さんは言った。


「ドラゴンがいることで、他の魔物の数もどんどん増えていって、その数を減らせずに。食べ物がじゅうぶんでなくなり、人の住むところに魔物が来ることのほうが問題だ。」


 現役Sランク冒険者がそう請け合ってくれるのであれば、ドラゴンが一斉にお引越しすること自体には問題がないってことだね。


「土地を用意する!?

 お前たちにそんなことが出来るのか!?

「試してみないとわからないですけど、それをする為にはひとつ条件があるんです。」


「条件?なんだそりゃ、言ってみろ。」

「そなたもわらわ同様、アレックスに使役されろということじゃ。

 そうであろ?アレックス。」


「はい、それが条件です。」

 僕はこっくりとうなずいた。スキルの秘密を話すためには、守秘契約を結ぶか、魔物であれば使役下に入ってもらう他ないからね。


「クリスタルドラゴンを既に使役してるってのに、インフェルノドラゴンまで使役しようってのか?お前、国でも滅ぼす気か?」


「ち、違いますよ!僕の秘密を話す為には、どうしても必要な条件なんです!」

「しておけリニオン。アレックスはおそらく、わらわたちの為の土地を用意可能じゃ。」


「お前がそこまで断言するとはな……。

 いいだろう。使役されてやるよ。

 だけど首はお断りだ。そこまでの強い契約は受け付けねえ。手ならいいぜ。」


「僕もちょっと、首は無理ですね……。」

 だって、僕がリニオンさんの首にキスすることになるんだよ!?いくらドラゴンて言っても、人型になると男性なんだもの!


「なんだと?この俺さまが使役されてやろうってのに、首を差し出されるのが嫌だと!?

 おお、そこまで言うのなら首を差し出してやろうじゃねえか!」


 売り言葉に買い言葉で、リニオンさんがグイッと襟首を引っ張って首筋を差し出してくる。僕にそこにキスしろっていうの!?グイグイ迫ってくるリニオンさんに腰が引ける。


「リニオンさん、ドラゴンからすれば口をコツンと当てるのはただの挨拶で、上下の立場を決めるやりとりかも知れませんが、人間の場合意味がことなる行為なのです。」


 叔父さんが間に入ってくれる。

「本来互いが好ましく思っている異性間でする行為で、特に首に口をつける行為は、生殖行為の過程に含まれる行動の1つです。」


 それを聞いたリニオンさんが、カーッと頭のてっぺんまで真っ赤になる。ドラゴンでも顔が赤くなったりするんだなあ。


「そ、そいつはすまねえ。その……、気持ち悪いことを要求して悪かった。俺と生殖行為なんて、そりゃ考えただけで無理だよな。」

「いえ分かっていただけて良かったです。」


「習慣がないから、わからないのは仕方がないですよ。では、手でよろしいですか?」

 叔父さんがリニオンさんに聞く。


「ああ。俺はお前に使役されてやるぜ。」

 リニオンさんの手の甲に、ミルドレッドさんの首に出たものと同じ紋章が浮かんだ。


「し、しつれいします。」

「ん。」

 リニオンさんの手を取って、その手の甲に口づけた。男の人にするって変な感じ。


 契約紋が光って次の瞬間スッと消える。

「これから僕の使役する魔物として、よろしくお願いします。」

「おう!」


【称号変更がありました。〈ドラゴンマスター〉から〈ドラゴングランドマスター〉へと変化しました。


 これにより、ドラゴン族と戦う際のステータスが5割増となります。

 またドラゴンを使役しやすくなります。】


────────────────────


人里に出る魔物は、ドラゴン以外なら、Sランク冒険者や、王宮所属の騎士団、及び魔法師団で、倒せない魔物は存在しないです。


なのでドラゴンが1番の脅威と叔父さんは考えているわけですね。

ダンジョンスタンピードは別です。


ドラゴンがいなくなって他の魔物が活発になった場合、通常のスタンピードが起こる可能性はゼロではないですが、ドラゴンが近くにいるよりマシだと、叔父さん以外のSランクも全員が考えています。

倒せない可能性も高いので。

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