第305話 災厄級vs災厄級

 その衝撃波だけで、近くの家や木が揺れ、バキバキバキバキ……となにかが折れるような音がして、木の幹が折れて地面に落ちた!

「2人ともやめてくださーい!」


 近くの倉庫らしき家の壁にもヒビが入り、壊れた外壁が封圧で吹っ飛んで行く。このままじゃ周囲が破壊されちゃうよ!

「これ以上破壊しないで!!2人とも!」


 いくら認識阻害魔法があったって、誰かが異常事態に気がついて兵士が集まってくる!

 こんなの突如竜巻が発生したようなものだよ!既に近くにいた人が逃げるのが見えた。


 下の人たちよりも近距離にいる、空中の僕らは、乗っているデルタごと、左右に振り回されそうになってデルタにしがみつく。

 このままじゃ後ろのレンジアが危ない。


「レンジア、ちょっとの間、デルタの手綱をお願い。ここのバーを掴んでいれば、しっかり乗っていられるから大丈夫。」

「わかった。アレックスさまは?」


「僕はちょっとあれを止めてくるよ。

 これ以上大事にならないうちにね。

 ──パダ!!」


 空中を歩ける呪文を唱えると、レンジアにデルタの手綱を任せて、デルタから降りる。

 僕は時空の海で73番目のお祖父さまの扉を出して、中へと入った。


 そしてミルドレッドさんとリニオンさんの近くをイメージして扉を開ける。

 体を打ちつけ合い、噛みつこうとし合っている、巨大な2体のドラゴン。


 こうして戦っているのを見ると、あらためてミルドレッドさんが、災厄級のドラゴンなんだということを思い出させられる。


 本人たちからしたらただの喧嘩レベルのことかも知れないけど、それだけでいずれは町がひとつ吹き飛んじゃうよ!


 聞く耳を持たなないくらい、興奮している彼らを止めるにはこうするしかない。

「─血の海、発動。」

 僕は容赦なく血の海を発動した。


 一撃。たったの一撃だ。

 それで止めたけれど、それでもミルドレッドさんとリニオンさんは、グオォオオォと声を上げて空中でもんどりうち始めた。


「僕の血の海は、固定ダメージなんです!

 HP、MP、STを、対象の50%ぶん吸収します!お二方がどれだけステータスが高くても関係ありませんよ!どうですか!?」


「こ……この野郎、インフェルノドラゴンに一撃でここまでダメージを与えるだと……?」

「アレックスがここまで強いとは、計算外じゃった!やはりわらわの番いに相応しい!」


「馬鹿なこと言ってないで喧嘩をやめてください!あと一撃血の海をくらわせたら、災厄級のドラゴンであっても、死にますからね?

 落ち着いて話を聞いてください!」


「……リニオン、アレックスもああ言っておるのじゃ。まずは話を聞いてたも。」

「チッ。しょうがねえな。あそこまでの実力を見せつけられたんだ、聞いてやるよ。」


 そう言って、2人が人型に戻った。

 僕はホッと胸をなでおろしたのだった。

 ミルドレッドさんは、ツイッと指を回転させて、認識阻害魔法をかけ直したみたいだ。


「とりあえず僕だけじゃ不安なので、僕の家にいらしていただけませんか?叔父さんにも話を聞いて貰って、意見を仰ぎたいので。」


「まあなんだっていいさ。

 ついて行ってやるよ。

 うまいもん出るんだろーな?」


 素直に話を聞いてくれるようになったリニオンさんに、僕はレンジアを迎えに行って、一緒に叔父さんの家に戻ったのだった。


 僕が家につくと、また護衛の仕事に戻るためなのか、レンジアがスッと姿を消した。

 僕はデルタをマジックバッグにしまうと、リニオンさんを家に招き入れた。


「叔父さん……えと、こちら、インフェルノドラゴンのリニオンさんです……。

 ちょっと叔父さんにも話に立ち会って欲しくて、連れて来たんだ。

 一緒に話を聞いて貰えないかな?」


「せせこましい家だが来てやったぜ!」

 腕組みしながら、ふんぞり返ってそう言うリニオンさん。


 既にクリスタルドラゴンのミルドレッドさんがいるからか、叔父さんはすぐにリニオンさんがドラゴンだと信じたみたいだ。


 叔父さんと一緒に、お茶とお茶菓子を準備して、僕、僕の隣りにミルドレッドさん、ミルドレッドさんの向かいにリニオンさん、僕の向かいに叔父さん、という並びで座る。


 ほんとは叔父さんと並んで座りたかったんだけど、ミルドレッドさんが譲らなかったんだ。叔父さんはお茶を一口すすると、


「それで相談したいことってなんなんだ?」

 と僕を見てきた。

「うん、こちらのリニオンさんが、ミルドレッドさんを連れて行きたいって言うんだ。」


「ミルドレッドは、俺の番いにする女だからな!一緒にいるのは当然だろ。」

「わらわは何度も断っておる!」

 ミルドレッドさんが腰に手を当てて言う。

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