第284話 レンジアの恥ずかしいところ

「ちょ、ちょっと、なにしてるの!?」

「アレックスさまに見て欲しい。

 アレックスさまになら、見られてもいい。

 ここ……、触って。」


 レンジアの右手が僕の左手を取って、自分のオシリに誘導してくる。

 お、オシリが半分見えちゃってるけど!?


「だ、駄目だよ!そこは女の子の大切なところで……。そんなとこ、簡単に男の前にさらして、触らせたらいけないよ!」


「ちゃんと見ないとわからない。触れない。

 アレックスさまに、ほんとの私を知って欲しい。……お願い。」

 切なげに懇願してくるレンジア。


 見ないように目を閉じながらも、左手は抗うことが出来ずに、レンジアのオシリにそっと触れてしまった。んっ……、というレンジアの声が漏れる。は、恥ずかしい!!


 ──ん?なんだろ、これ。コリッとした先端のようなもの。フサフサした毛が生えていて、そのコリッとしたものを覆っている。


 僕は片目を薄っすらと開けて、ソーッと自分の指先が触れているところを見た。

「これって……尻尾?かなり短いけど。」

「たぶんそう。だから捨てられたと思う。」


 レンジアのオシリには、フサフサの毛をまとった短い尻尾が生えていた。遠目だとよく見ないとわからないくらいだけど、確かに尻尾だ。なんか触ってて気持ちいいな。


 前にお風呂場で見た時は、レンジアが横を向いて水浸しの服を絞っていたから、見ないようにしていたのもあって、尻尾があるなんてことに、気が付かなかったんだな。


「そこ……、なんか変な感じがする。」

 レンジアがトロンとしたような表情を浮かべている。犬は尻尾の付け根が気持ちいいというから、レンジアもそうなのかな?


 思わず撫でてあげようとして、犬じゃなくてレンジアだったことを思い出してハッとなる。こ、腰を撫でるところだった……。


「誰かに見せたのは初めて。」

 レンジアが下履きを履き直して、恥ずかしそうに嬉しそうにそう言った。


 まったく他意なく、突然こういうことをしてくるから、レンジアにはドキドキさせられっぱなしだよ。さっきドキッとしたのも、そういうことなんだろうな。


 人間でも獣人でもないことを示すレンジアの尻尾は、知られるのが嫌なことだったんだね。それを見せてもいいくらい、見て欲しいと思うくらい、心を開いてくれているんだ。


「胸のそれも病気とかじゃないから。その、大好きな人がいると、銀牙狼族の胸に出来るものなんだって。だから、レンジアが僕のことを大好きだっていう、しるしなんだ。」


「私がアレックスさまのことを、大好きなしるし……。私は、こんなにたくさん、アレックスさまのことが大好き。良かった。これならアレックスさまにも見える。」


 レンジアが嬉しそうに微笑んだ。ほんとに最初の頃と比べると、よく笑うようになったよね。基本無表情なのは相変わらずだけど。


「──アレックス!風呂の準備が出来たそうじゃ!わらわとキリカは先にいただいてしもうたぞ!風呂に入ったら食事じゃと、」


 そこに、ノックもなしに、ミルドレッドさんが部屋に入ってくる。ベッドの上の僕とレンジアを見て、不思議そうにしていた。


「誰かと話していたように思ったんじゃがのう。そなた独り言がでかいのかの?」

「え?」


 いつの間にかレンジアは姿を消していた。

 さすが王家の影、素早い!!

「オニイチャン、ミルドレッドさんは私が引き止めてますから、ごゆっくり。」


「あ、うん。最後に入るから、叔父さんに先にお風呂に入ってって、伝えてくれるかな。

 終わったらまた呼びに来てって。」


 ミルドレッドさんの後ろから、ヒョコッと顔を覗かせたキリカがそう言ってくる。

 僕はお風呂に入る前に、レンジアに話さなくちゃならないことがあるからね。


 部屋に鍵、かけるの忘れてたや。

 今度はしっかりと鍵をかけて、と……。

「レンジア、もういいよ。」


 そう言うと、レンジアが天井から降ってくる。そんなところに隠れていたんだ。

「僕の話の続き、聞いてくれる?」

 レンジアがこくっとうなずいた。


「僕はね、“ななつをすべしもの”なんだ。

 レンジアも王家の影なんだから、聞いたことくらいあるでしょう?」

 またこくっとうなずいた。


「僕の使命は、勇者や聖女を含む、7英雄候補者たちを育てること、そしてそれを見つけ出すことなんだ。その力も持ってる。」


「英雄を見つけ出す……。」

「レンジア。君もその1人なんだ。」

「私……、英雄?」

 レンジアは不思議そうにしている。


「正確には候補者の1人、だね。獣人にしかなることの出来ない、獣神になれる可能性を秘めてるんだ。レンジアは半分人間なことでその成長速度が人より高めなんだよ。」

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