第282話 秘密の共有

「キリカ!?」

「そうか!そうじゃろう!そうじゃろう!

 なかなかできた娘ではないか!」

 ミルドレッドさんはすっかりご満悦だ。


 自宅に戻ると、叔父さんがミルドレッドさんの部屋を早速準備している。その間、キリカとミルドレッドさんに、ダイニングでお茶を振る舞い、待っていてもらうことにした。


 女同士話し込みたいみたいで、僕はいったん失礼させて貰って部屋に戻ることにした。

「ふう……。色々あったなあ。」


 ベッドに体を投げ出そうとすると、見えない何かがいきなりムニッと抱きついてきた。

「……アレックスさま。無事だった。」

 ──レンジア!?


 話したことで息を止めていられなくなったんだろう。ベッドの上にレンジアが座って、ベッドに腰掛けている僕を抱きしめている。不安そうな表情で、ギュッと目を閉じて。


「無事って……そりゃ無事だよ、レンジアと会わなかったのなんて、せいぜい2日だよ?

 そんな短期間でなにか起こるわけがないじゃない。レンジアは心配性だなあ。」


「心配……?」

 レンジアは僕の胸から顔を離して、不思議そうに首を傾げた。あれ?違った?


「監視対象者を2日も見失ったことがない。

 安全かわからなくて落ち着かなかった。

 心配がなにかわからない。」

 とレンジアは素直にそう言ってくれた。


「そっか、ごめんね。どうしてもあの時は、レンジアを中にいれるわけにはいかなかったからさ。そういうのをね、心配するって言うんだよ。レンジアは心配してくれたんだ。」


「私、アレックスさまのことが、心配……。

 アレックスさまの姿が見えなくて落ち着かなかった。会いたくてたまらなかった。

 私はアレックスさまを心配した?」


「うん、そうだね。レンジアは心配してくれてたんだね。心配してくれてありがとう。

 でも僕はもうこうして帰って来たから、安心してよ。この通りなんともないからさ。」


「良かった……。心配、した……。」

 ホッとしたような笑顔で微笑むレンジア。

 ドキッ!!

 ん?ドキッって、なに?


「あ、あのさ!その、レンジアには今まで黙ってたんだけど、これからはレンジアにもお願いしたいことがあるんだ!けど今から話すことは内緒にして欲しいんだ。出来る?」


「わかった。アレックスさまのお願い。魔法の誓約書を書く。誰にも話せなくなる。」

「いいの!?それって、王家の命令よりも、僕とのことを優先することになるんだよ?」


「……アレックスさまのお願い、きいてあげたい。なんでかはわからない。」

 任務との狭間でレンジアの目が揺れる。今はレンジアは混乱してるのかも知れないな。


 レンジアはオフィーリア嬢の影だけど、オフィーリア嬢の大祖母さまの影でもある。当然オフィーリア嬢の任務よりも、大祖母さまの任務を優先することになる筈だ。


 つまりレンジアは、オフィーリア嬢よりもオフィーリア嬢の大祖母さまよりも、僕とのことを優先すると言ってくれてるんだ。それって王家の影としては重大な命令違反だ。


 なのに……。レンジアはそれくらい、僕のことを大切に思ってくれているんだろうか。

 本人にあんまり自覚がないみたいだけど。


「じゃあ、よく考えて、それでもいいと思ったら、魔法の誓約書を作ろう。

 その時に改めてこの話をしようよ。魔法の誓約書は、作るのに時間もかかるしさ。」


「秘密を漏らさない誓約書、ある。」

 レンジアがそう言って、どこからか魔法の誓約書を取り出してみせた。

「任務の為に必要。常に持ってる。」


 魔法の誓約書が必要な任務って、なに?

 相手を無理やり従わせる時だとか?

 改めて王家の影なんだなあ……。どう使うのかは、あまり考えないようにしよう。


「じゃあ、ここにサインするよ?

 ほんとにいいの?」

「いい。」

 レンジアがコクッとうなずいた。


「2人だけの秘密……。」

 レンジアがほんの少しだけ、無表情のまま嬉しそうに頬を染めた。


 サインを終えた魔法の誓約書を空中に放り投げると、青い炎をまとって、一瞬でそれが消えた。これで魔法の誓約書が発動した。


「アレックスさまにも、私の秘密を知って欲しい。まだ誰にも言っていない。」

「レンジアの秘密って?」

「見て欲しい。」


「レ、レンジア!?」

 胸のボタンを、1つ、2つ、3つと外していくレンジア。ちょ、ちょっと待って!?

 何を見せるつもりなの!?


 思わずギュッと目をつぶる。

「この間出来た。ここに、これが。」

 レンジアがそう言ってくるのでうっすら目を開けると、胸元に何やら花の紋章がある。


 オッパイが半分近く見えちゃってるのは、気にしないでおこう。大輪の花の紋章に視線を集中させるようにして、じっと見つめる。


────────────────────


久々登場のポンコツ娘レンジア。

実際の時間としては、レンジアと離れて2日くらいですね。

それでも時空の扉の中までついて行かれないので、レンジアはずっと心配していました。



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