第260話 相談出来る家族

 幼いリアムには、当然相談なんて出来ないし、兄として情けないところも見せられないしね。……もう少しリアムと年齢が近ければ、話したかも知れないけど。


 王侯貴族は自分で子どもを育てないことも多いから、親が相談に乗らないなんてことは格別珍しくもないんだけど、その場合専用の侍従を置くのが普通なんだよね。


 特にシャーラ王国の王族の場合、その侍従からマナーを学んだり、大人になっても相談に乗ってもらったりするものなんだ。


 王侯貴族は友人であっても、簡単に自分の弱みを見せちゃいけない。いつどこでそれが家のことに関わってくるかわからないから。


 自分1人の問題で終わらないから。

 貴族で軽々しくそういうことを話す人は、家を取り潰す人間として敬遠されるんだ。


 だから王侯貴族には、専用の雇用契約を結んだ、侍女なり侍従が必要になる。そういう人がいない人間は、愚痴1つこぼせない。


 ……けど、僕にはそういう人はあてがわれなかったんだ。父さまは僕には興味がなかったから。家令は父さまの相談には乗っても、僕の相談には乗ってくれない。


 家令が高齢なら次世代の後継者の侍従が、将来の家令候補として働くことも多いんだけど、僕の家の家令は父さまと同年代だから、その場合は家令が次世代の家令も勤める。


 だから必要ないと思ったんだろうね。その場合は家族が相談に乗れば済む話だから。

 だけどエロイーズさんに丸投げして、父さまは相談には乗ってはくれなかった。


 母さまが生きてた頃からそうだった。父さまのところに行くたびに、オリビアに聞け、そして今は、エロイーズに聞け、で終わり。


 エロイーズさんはあんなだから、当然僕の話なんて聞いてくれない。僕も小さい頃は新しい母親に、色々相談しようとして頑張ってみた時期もあったんだけど、ね。


 最低限の後継者教育として、家庭教師はたくさんつけられたけど。僕は相談に乗ってくれる相手が1人くらい欲しかった。


 だから僕はいつも、誰かに相談せずに、1人で解決しようとする癖がついたんだ。

 だってそうするしかなかったから。


「だけど今は、叔父さんがいるし、キリカだっているしね。だからこれからは、もっと色々相談するようにしようと思って。」


 僕がそう言って笑うと、キリカがギュッと僕を抱きしめて耳元で囁いた。

「私、もっと早く生まれたかった。そうしたら、オニイチャンの相談に乗れました。」


 切なそうにそう告げるキリカの左肩に、僕もそっと背中越しに右手を当てて、抱きしめかえしまではしなかったけど、キリカの細い体を受け止めて、肩に頭をつけた。


 僕が今作っただけな筈の体は、とてもあたたかかくて、僕を抱きしめてくれるキリカの存在に、思わず泣きそうになる。


「……うん。そうだね。キリカはしっかりしていて頼りになるから。キリカが近くにいてくれてたら、僕も色々話したと思うな。」


 悩みなんて、人に話せるうちは悩みじゃないなんて言葉があるけど、ミーニャや、それこそオフィーリア嬢には、絶対相談なんて出来ないと思っていたしね。


 頼りになって、相談に乗ってくれて、僕のことを思ってくれる、そんな家族が僕に1番足りないものだったんだ。母さまは僕の現状を心配して、キリカを生み出したんだろう。


 キリカが近くにいてくれたら、僕のこの性格も人生も、きっと違ったものになっていただろうな。……母さま、ありがとう。キリカを作ってくれて。僕に足りないものをくれて。


「そう言えばオニイチャン。倒した魔物の素材は回収しないんですか?」

「え?」

 キリカが突然不思議なことを言いだす。


「一定以上の悪しきものを干からびさせる水の魔法陣を発動させたんですよ?この国にいた、かなりの数の魔物が死んでます。

 素材を回収しないと消えますよ?」


 !!?????

 えええええ!?

 そ、そうか、さっきの魔法陣で、この国にいた魔物まで討伐しちゃったんだ!


 ザザ・アイワナ・バイツウェル2世にばかり気を取られて、そこは想像も及ばなかったよ。キリカがいてくれて助かったな。


「そ、そっか、なら回収しないとね。」

「はい。」

 僕は83番目扉を開けて、地上を見下ろした。うっ、やっぱり直視すると怖いな……。


「時空の海!吸引!

 水の魔法陣で討伐された魔物の素材!!」

 すると、エザリス王国のあちこちから、素材が吸い上げられて空中へと浮かぶ。


 魔石も混じっているから、なんだからキラキラしてて、とってもキレイな光景だった。

「わあ……、すっごい、大量だあ……。」


 空中に浮かぶ光を、地面の人たちが見上げて何事か言ったかと思うと、突然次々とひざまずいて、祈りのポーズを取り出した。


 ?????なにごと?

「神の奇跡だと言っていますね。」

 とキリカが言った。

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