第257話 彼らの狙い

 鉄の強度に変わったそれが、僕の顔の下半分までも押さえ付けて、僕が後ろに振り返ることすら許してくれない。

 ──そうだ!


 僕は思い切り後ろにのけぞった。

 見えた!布のムチ使いの姿が!

 生命の海、水刃!!連撃!!

 心の中で生命の海を発動させる。


「がああぁっ!!」

 水の刃が布のムチと、布のムチ使いに襲いかかる。僕を絡め取っていたせいで、身動きが取れずに水刃をまともに受けた。


 布のムチが水刃に切られると、布の強度に戻ってハラリと落ちる。と同時に、僕の体が真っ逆さまに地面に落ちてゆく。


 僕は彼らと違って空に浮いているわけじゃないから、足がつかないと空中にはいられないんだ。僕はなんとか足を下に向けようと、体をひねって体勢を変えた。


 叔父さんほどじゃないけど、僕だって運動神経が悪いわけじゃあないんだ!なんとか足を下に向けたけど、頭って重たいんだな。勝手に頭のほうが下を向こうとして困ったよ。


 地面を蹴るように、空中を蹴って、階段を飛ばすみたいに駆け上がると、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世が作った魔法陣の穴から、僕も魔法陣の外へと飛び出した。


 ザザ・アイワナ・バイツウェル2世は、男の人を抱いたまま、フワフワと空を飛んで行く。正直スピードはまったく早くないから、これなら全然追いつけるよ!


「待て!逃げるな!ザザ・アイワナ・バイツウェル2世!」

 僕の呼びかけに、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世が振り返る。


「ザザ・アイワナ・バイツウェル2世……?誰だそれは。このお方はリャリャクさま。お前なぞが気安く口を聞ける相手ではない。」


 ザザ・アイワナ・バイツウェル2世が抱いている男の人が、そう僕に言った。

 リャリャクさま……?確かあいつらが前に来ていた時に言っていた名前だ。


 ザザ・アイワナ・バイツウェル2世がリャリャクさまだったんだ。魔物になって、もとの記憶をなくしてるんだろうか?リャリャクさまとして、新しく生まれ変わったのかな?


「あなたは誰ですか?」

「お前なぞに名乗る名など持ち合わせていない。私たちの邪魔をしようというのか。」


「……そのつもりです。

 あなた方が、僕や僕のまわりの人たちに、これからも危害を加えるつもりなら。」


「──そうか!ようやく追って来たのか。

 お前が“ななつをすべしもの”だな。

 その顔、その波長、記憶させて貰うぞ。

 覚えよ、ザナハルク。」


「はっ。」

 男の人がそう言った視線の先には、小柄な白髪に白ひげの男性がいた。


 その人が小柄過ぎて頭が出なくて、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世の反対側の腕の中に抱かれていたのに、見えなかったんだ。

 

 僕の顔と波長を記憶する……?

 この人、占い師か!

 占い師は相手の顔と波長が分からないと、正確に相手のことを占えないんだ。


 まさか、これは罠……?

 水の結界が僕の作った魔法陣だと気付いた時から、僕が追いかけて来ると思って、逃げるついでに僕が来るのを待ち構えていたの?


「リャリャクさま、これで用は済みました。

 さあ、我らが安全地帯まで移動しましょうぞ。さらばだ“ななつをすべしもの”。

 いずれ私がお前の力を手に入れる。」


「──……!!待て!!」

 ザザ・アイワナ・バイツウェル2世が、空中に新たな魔法陣を作り出す。それに吸い込まれるように、その姿を消してしまった。


「……。やられた。」

 こちらからは向こうの位置は分からない。

 魔族の認識阻害の魔法によって、情報と通信の神さまであるキリカの目すら欺く魔物。


 あいつらが足止めと言ったのも、本当に足止め出来ればそれはそれで、逃げられるから問題ない。だけど本当の目的は、僕を占い師の前におびき寄せることだったんだ。


 これからは、僕のいる場所を、相手はいつでも特定し放題だ。叔父さんとキリカとともに、何か作戦を考えなくちゃ。


 振り返ると、あいつらのいた場所にも、別の魔法陣が浮かび上がっていた。

「じゃあな、“ななつをすべしもの”。

 俺たちも行かせて貰うぜ。」


 ニヤリとそう言って笑うと、男たちは魔法陣の中に吸い込まれて消えて行った。

 僕は穴が閉じる前に魔法陣をくぐると、水の結界の中へと戻って叔父さんと合流した。


「……すまん、逃した。」

「ううん、僕もだよ。とりあえず戻ろう、叔父さん。相談したいことがあるんだ。」

「相談したいこと?」


「おかえりなさい、オニイチャン。」

 83番目の扉の中へと戻ると、キリカが後ろ手を組みながら笑顔で出迎えてくれる。


「お兄ちゃん?」

 叔父さんが再び目を丸くしている。そうだった、これの説明から始めなきゃ。

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