第253話 新たなる託宣
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「……新しいお告げだと!?」
「はい。確かに神の託宣でありました。」
「このようなことは異例中の異例だ。……短期間に2つものお告げがあるとは。」
“選ばれしもの”のいる中央大神殿は騒然としていた。勇者に関すると思われるお告げは既に出た。あとは聖女に関する託宣を待つのみであったところに、2つの託宣があった。
つまりこれは聖女を指し示す託宣ではないということになる。ならばなんであるというのか。過去に複数同時に託宣があった際は、魔王復活が早まったというものであった。
神は通常1つの事柄に、1つの託宣でしか示さない。だが特に重要な事柄は複数の託宣で告げてくることがある。
しかしこのようなことは、過去数百年例のないことであり、それだけ特別な託宣であるということがうかがえた。
「変動の時はきたれり。白は黒く染まるとも明星は変わらず。」
「黒は穢れとともに白く流れる。形なきものは形あるものへ。」
「これはどのような意味であるのか……。」
「共に黒と白が入っているということは、特にその点が重要だということだ。」
「明星とは特に優れたもの、選ばれし尊敬を集めるもの、つまり王族を指し示す言葉であることは、2000年前の聖女さまの時点で既に明らかになっております。」
「2000年前……!」
その言葉に全員が息を呑んだ。失われた大地。言葉にすることも許されない国。魔女裁判にかけられ殺された聖女。
その結果、当時の5大大国が一瞬にして消えたという事実。その先の託宣に対する検証を、誰もが言い出せなくなっていた。
沈黙の中最初に言葉を発したのは、“選ばれしもの”の1人であるファティマだった。
“選ばれしもの”の中では下から2番目に若い、まだ20代後半の青年だ。
薄く水色がかったプラチナブロンドの長髪に、常に微笑みをたたえた背の高い美青年。
“選ばれしもの”だけが着ることを許された、袖の広がった祭司服を身にまとっている。
「これは彼の国の王族を指し示すものではないでしょうか?もしくは国そのものを。」
他の“選ばれしもの”たちは無言でファティマを見つめていたが、反論はなかった。
「失われた大地を指す言葉だと言うのか?」
「はい。彼の国は穢れた土地として長く人々より疎まれてきましたが、その王族……、聖女と同じ血を引く彼らはそうではないと。」
ザワザワとファティマの周囲が騒がしくなる。ファティマも失われた大地の国名そのものは、言葉にすることは控えたものの、ハッキリと最高祭司を見つめてそう断言した。
「失われた大地を穢れたものとして扱うことを、神が憂いているという意味だとでも?」
「はい。」
「だとすれば、なにゆえ今更なのだ。」
「確かに……。既に彼の国が失われた大地と呼ばれて2000年以上経つ。なぜ今なのだ。もしも今回の託宣がそうだとするのなら、すぐにお告げをしてもおかしくないだろう。」
「神からすれば、2000年などまたたきをする間のようなもの。人の子の基準ではかれば、神の真意ははかれますまい。」
「だが、彼の土地で悪魔の力を借りた、生贄召喚がおこなわれたのは、純然たる事実に他ならない。生贄召喚は魔族の魔法だ。魔族の力を使われた土地は瘴気に覆われる。」
「瘴気が増えれば魔物も増える。もはやあの土地に人が住んでいるとは思えぬが。」
祭司たちはファティマの言葉に異論を唱えた。だがファティマは微笑で告げる。
「聖女の生まれし土地には加護があるとされています。彼女は正しく聖女であった。その加護により土地が瘴気に覆われなかったら?人々は今も普通に暮らしているでしょう。」
「聖女の生まれし土地への加護か……。
確かにもしもそうであったとしたら、我々は人の住んでいる土地を、ずっとないがしろにしてきたことになる。」
最高祭司は苦しげにそう言った。
「形なきものは形あるものへ、とは、存在しない土地とされてきた場所が、本来の国としての姿を取り戻す時が来たということ。」
最年長の“選ばれしもの”、オーディアがそう言った。失われた大地を再び国として認めるのか。その岐路に立たされていると。その言葉に、再び周囲がザワザワとしだす。
「我々“選ばれしもの”が彼の土地が託宣の場所であるとするのには、根拠があるのです。
我々は聖なる力の波動を感じることが出来る。勇者と聖女を代々見極めてきました。」
下から3番目に若い“選ばれしもの”、ディクワットがそう口を開く。
「彼の土地に聖なる波動を感じたのです。
──我々“選ばれしもの”全員が。」
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