第208話 “占者の泉”の村の惨劇と奇跡
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「なぜ……、なぜこのようなことを……!」
血まみれの村長は、自分たちの村を虐殺してまわった男たちの1人の足に、すがりつくように足首を掴んで見上げ、そう訴えた。
「お前たちが、さっさと素直にこの場所を寄越さねえから悪いんだ、──よ!!」
「ギャアッ!!」
顔面を蹴り上げられ村長が悲鳴を上げる。
「ちょっと遊んでやるだけのつもりが、思いの外手応えのあるやつがいたもんで、ついつい楽しんじまった。わりぃな。ハハハ。」
村を襲った10人の男たちは、木の幹に無数の武器を突き立てられて、血だるまになって俯いている、若い女を見て笑っていた。
男たちは散々村を荒らし、この村で唯一戦える、美しい少女をズタボロに痛め付けてから、楽しげに去って行った。
「アーシェ……。ごめんよ。あんたがたまたま、この村に帰って来ていたばかりに、あんたまでこんな目に……。」
「母さ……、ゴフッ……!!」
母の名を呼ぼうとした声が、喉の奥から溢れた血によって塞がれる。
「母さ……、母さん……?」
少女に呼びかけていた筈の母親は、突っ伏して事切れているかのようだった。
『なぜ……、なぜこんなことを。
私たちが、この村がいったい何をした!』
焼ける家。泣き叫ぶ子ども。倒れている人々。すべてが数十分前と様変わりしていた。
さっきまで楽しく団らんしていた筈の、幸せな村の、今の現実の光景だった。
少女が涙をこぼすと同時に、そのしずくが地面に落ちた時、涙が急に光り始める。
【緊急発動。──スキル〈海〉。
英雄候補者の生命維持における、困難を確認。損傷率50%。生命維持低下を確認。
神の子が立ち寄った場所に対する、特別加護を発動します。
スキル〈海〉保持者が半径10アガ以内にいない為、英雄候補者の回復率が30%にとどまります。
自動対象検索、勇者、聖女、賢神、闘神、弓神、獣神、龍神に変化出来うる候補者について。
現時点で勇者に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
現時点で聖女に変化する可能性のある者について。
●アーシェ・シュルツェ。
聖女に変化する可能性、8.3%。
現時点で賢神に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
現時点で闘神に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
現時点で弓神に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
現時点で獣神に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
現時点で龍神に変化する可能性のある者について。
半径20リオ以内に該当者がいません。
英雄候補者の所持するスキルの効果を、一時的に1000%引き上げます。】
『なんだ……?力が湧いてくる……。』
少女は試しにはりつけにされた手を動かしてみる。……──動く……!!
『今なら使える!広範囲魔法が……!!』
「エリア……ヒール……!!」
広範囲とはいえ、ヒールは所詮ヒール。
せいぜい母の命をつなげられればよいと思った程度であったのだが。
『なに……、が起きてるの……?』
エリアヒールを放った瞬間、完全に癒やされた体は、無数に刺さった武器を体から押し戻して、ポロポロと地面にこぼれ落ちた。
少女の本来の魔力では、決して届かない村全体にまで、エリアヒールの威力は及んだ。
そして次々と不思議そうに、何ごともなかったかのような姿で起き上がる村人たち。
だがその服についた血は消えてはおらず、焼けた家も、この村で起きたことが夢物語ではないことを見せつけていた。
『奇跡だ……、奇跡が起きたんだ。
きっと村の守り神、“占者の泉”さまの加護なんだ。ああ、神さま……!!』
少女は神に感謝の祈りを捧げて泣いた。
「──ここか、“占者の泉”とやらは。」
「そのようだ。」
「一見何の変哲もない場所に見えるがな。」
「ここの水を持って帰りゃいいんだな。」
「あいつが直接持ってくればいいのによ。」
「飛竜の速度に耐えられるのは、俺たちみたいな選ばれた人間だから仕方ねえさ。」
「違いねえ!」
男たちは笑いながら、“占者の泉”の水をマジックバッグに直接詰めていく。
飛竜に乗り込み、帰還しながら、全員の頭の中はたった1つのことがしめていた。
「ようやく会えるな、ななつをすべしもの。
どんな実力を持っているのか楽しみだ!
簡単に殺されるんじゃあ、つまらねえ。
せいぜい俺たちを楽しませてくれよ!」
神のスキルの加護に救われた少女と、無意識のうちに少女を、そして村人すべてを救った少年が出会うのは、もう少し先のお話。
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