第197話 スウォン皇国、皇帝への謁見

 瓦屋根って言うんだ!すごいなあ!あんなに斜めのやつもあるんだねえ。なんだか不思議な感じがする形だなあ。


「このあたりはたくさん雪が降るからな。

 雪が落ちて行くように作られているんだ。

 屋根くらいでそんなに驚いていたら、中に入ったらもっと驚くぞ?」


「そうなの?」

「なにしろ、フスマっていう、鍵のかからない扉があるからな。城の中に。」


「お城の中に鍵のかからない扉があるの!?

 そんなの、侵入され放題じゃないか!」

「はは。まあそう思うよな。俺も最初はそうだったからな。見た時は度肝を抜かれた。」


 フスマ……。どんな扉なんだろう。

 僕はドキドキしながらお城を見上げた。

「これはこれは、エルシィ殿!

 本日はどのようなご用向きで?」


 変わった甲冑を身に着けた門番が、エルシィさんに声をかけている。

 ……というか、門番なんだよね?


 小さくて毛むくじゃらの、太っちょのネズミみたいな、クマみたいな、えらく可愛らしいのが槍を持って立ってるけど……。


「彼らは小袋熊という種族だ。とても人間が好きで、それ以上にとっても寂しがりやな、友好的な種族だから、仲良くするといい。

 ちなみに抱っこされるのが大好きだぞ。」


 ええっ!?門番なのにそれでいいの!?

 というか、あのムッチリモッチリとした、愛らしい生き物を、抱っこ出来るの……?


 言うが早いか、叔父さんが片方の小袋熊をヒョイと抱き上げて抱っこして、お腹ナデナデをし始めた。き、気持ちよさそう……。


「アイデンさん、久し振りだなあ!」

「こ、この分かっている撫で方は、セオドア殿ではないですか!

 ああ〜、戦意が抜けてしまう……。」


 ウットリとナデナデされるがままになっているアイデンさん。ぼ、僕もいいかな……。

 反対側に立っていた門番をヒョイと抱き上げて、同じようにお腹ナデナデをしてみた。


「うおっ!は、初めてなのに、う、上手いぞコヤツ……!くっ!せ、戦意が……。

 私には門番の仕事が……!!」

 言いながらトロ~ンとしだしてしまう。


 ナニコレ、かっわいい!

 フッカフカのモッフモフ!

 お日様の匂いがするね!


「セオドアはお魚屋さんを開きに来たにゃ!

 それでクローディアさまにまだ挨拶していないと言うから、連れて来たのにゃ!」


「そ、そうでしたか……。

 セオドア殿なら問題ありませぬ。

 どうぞ中へ。ごゆるりと……。

 ……ぐぅ。──はっ!」


 気持ち良すぎて、寝ちゃってるし。

 僕と叔父さんは門番の小袋熊さんたちを地面に降ろすと、2人に見送られながら、エルシィさんとお城の中へと入って行った。


 お城の中は、ちゃんと鍵のかかる扉もあるんだけど、1番多いのが叔父さんが言ってたフスマというやつで、もともと鍵のない引き戸みたいなやつだった。


 その引き戸みたいのが、スッと音もなく開いては、中から侍女らしき人たちが現れる。

 独特の服装がとても綺麗だった。その内の1人が、先頭に立って案内してくれる。


「あれはキモノと言ってな、あれもこの国の独自の文化だ。広げて1枚の絵になっているキモノほど、上質で高いものだそうだよ。

 飾って楽しんだりも出来るものなんだ。」


 服が1枚の絵になってるの!?

 スッゴイ!!

 初めて知ったよ、そんな文化!!


 エルシィさんの着崩した感じに着ている服も、形は似てるけど柄が途中で途切れているから、これは普段使い用の服ということか。


「女性貴族は着ている服の形で、既婚者かどうかが判断つく感じだな。」

 へえー、既婚者用の服があるんだね。


「僕らの国の貴族女性が、既婚者は髪をまとめ上げているようなものだね。」

「そうだな。」


 前を歩いて案内してくれている、この人はどっちなんだろうな?まだ若そうだけど、獣人の年齢が分かりにくいのは、エルシィさんで嫌ってほど分かったし……。


 フスマを何重にも開いた奥の部屋に、僕と叔父さんが通される。1段高くなった場所に床に直に座る為の物なのか、柔らかそうなたくさんの布が重ねて敷いてあったよ。


 目の前には向こう側が薄っすらと透けて見える程度の木枠のようなものが下がっていて、叔父さんがあれはミスというもので、女性の姿を見ない為のものだと教えてくれる。


 貴族以上の女性は、配偶者以外の異性に顔を見せるものではないのだそう。あまり近くに寄ると、こちらからも見えてしまうから、近付くことすら許されないんだって。


 近付くことすら許されないんじゃ、ダンスの時とかどうするのかな?ダンスのない国なんてある?どうやって社交するんだろうか。


 僕がそんなことを考えていた時だった。1段高い場所の横のフスマがスッと開いて、奥から豪華なキモノを引きずった女性が、ミスの向こう側へと歩いて来たのだった。

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