第196話 獣人の国、スウォン皇国

「クンクン……。にゃ!!

 セオドアにゃ!

 セオドアの匂いにゃ!

 久し振りなのにゃ!」


 エルシィさんはそう言うと、いきなり嬉しそうに叔父さんの首に抱きついた!

 獣人の歓迎の挨拶なんだろうけど、随分と大胆だなあ。ちょっと羨ま恥ずかしい。


「はは。相変わらず人間の顔が覚えられないんだな。思い出してくれて嬉しいよ。」

「にゃにゃ、にゃって人間の顔、区別がつきにくいにゃ……。ごめんなのにゃ。」


 エルシィさんは申し訳なさそうに、しょんぼりと頭の耳を下げた。ほんとの猫みたいで可愛らしい仕草と表情だなあ。


 僕らが同じ種類の犬猫の顔が区別付きにくいようなものなのかな?もしも双子だったりしても、匂いで判断がつくってことだね!


 ──あ!エルシィって、この人……。


「ところでこの人はダレにゃ?」

「あ、初めまして。

 セオドア・ラウマンの甥で、アレックス・キャベンディッシュと申します。」


「にゃにゃ!エルシィ・マメオにゃ!

 よろしくなのにゃ!」

 やっぱり!この人、獣神候補の1人だ!

「アレックスでいいにゃ?」


「はい。エルシィ嬢。」

「なんにゃその呼び方、むずがゆいにゃ!

 エルシィでいいにゃ!」

「じゃ、じゃあエルシィさんで……。」


「それもやめるにゃ!エルシィでいいにゃ!

 だいたいアタシはオマエよりもずっとずっとお姉さんにゃ!子どもだっているにゃ!

 お嬢さんじゃないにゃ!」


 ええ〜!僕とそう変わらないか、少しお姉さんくらいにしか見えないんだけど!?

 獣人の年齢分かりにくいよ……。


 そっか、でも叔父さんが世界中を回ってた冒険者時代の知り合いなんだから、ずーっと歳上でもおかしくはないのか。


「にゃにゃ!それよりも、ここでお魚屋さんを開くつもりというのは、本当なのかにゃ?

 ここはとんでもなく山の上にゃりよ?」


「はい、ここだけでなく、全国展開させるつもりでいるんですが、その下見です。」

「にゃにゃ〜!嬉しいのにゃ!ようやくここにもお魚屋さんが出来るのにゃ!」


 エルシィさんは嬉しそうにピョンピョンと跳びはねて喜んでいる。

「みんなお魚が大好きにゃりんけど、ふもとまで買いに行っているから大変なのにゃ。」


 ああ〜、この雲海を越えてふもとから運んでくるのは割に合わなそうだものねえ。

 その分高く売れるなら別だけど……。

 僕なら10倍でもお断りかなあ。


「でも、僕が毎日お店に立てるわけでもないので、代わりに売ってくれる従業員を見つけられたら、の話ではあるんですけどね。」


「そ、そうにゃりか……。

 ──!!

 アタシはどうにゃ!?」

「エルシィさんが?」


「ちょうど自宅の近くで出来る仕事を探していたにゃ!小さい子どもが出来たから、あんまり遠くに行かれないのにゃ。」

 ああ、それはそうだよねえ。


「働かせて貰えたら助かるのにゃ。大きい子どもたちもいるにゃりんから、最悪子どもたちに面倒見させようと思っていたにゃ。必要なら子どもたちも店に立たせるにゃりん。」


「本当ですか!?」

「いいんじゃないか?

 エルシィなら信頼できるからな。」


 叔父さんがそう言ってくれる。叔父さんが信用している人なら安心だね!

 渡りに船だよ。


「その代わりと言ってはにゃけど……。

 従業員割引で魚を安くして欲しいにゃ。

 なにせ子どもたちが多くて、お腹いっぱい食べさせるのが大変なのにゃ。」


「そんなことですか!

 もちろん構いませんよ。

 他の従業員は、給与の他に、魚を受け取っている人もいますからね。」


「にゃにゃ!にゃんと!

 それはありがたいのにゃ!

 家計に優しいお店にゃあ。」


「お子さんは何人ですか?」

「17人にゃ!独立したのも入れれば、アタシは全員で35人子どもがいるのにゃ。なにせ毎年1人以上生まれるにゃりからねえ。」


 多っ!!

 ほんとにガッツリとお母さんだったよ。

 そりゃあお嬢さん扱いしたら失礼だね。


「後でゆっくり話を聞かせて欲しいにゃ!

 それよりもセオドア!

 クローディアさまには、もうお会いしたのにゃ?きっと大喜びだったにゃりんね?」


「いや、まだ来たばかりなんだ。

 ご挨拶は考えていなかったな!」

「にゃんと!それは駄目なのにゃ!ちゃんと挨拶するのにゃ!話はそれからにゃ!」


 エルシィさんがそう言ってグイグイ引っ張って行こうとする先には、雲の上に突き出た豪華な異国風のお城が建っていたのだった。


 うわあ……。すっごい、あれなんだろう?

 屋根が斜めで、平たい黒いレンガみたいのが乗っかってるけど、よく落っこちてこないなあ?下でくっつけてるのかな?


 ポカンと城を見上げる僕に、

「あれは瓦屋根というものだ。土を焼いて作られた、この国独自の文化のひとつだ。」

 と、叔父さんが教えてくれた。



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