第179話 僕の商会の作成

 売り上げは半々ということで、原材料費も相殺でよいと伝えたんだけど、カーリー嬢は8対2でよいと言ってきた。


 ようするに僕の水は単体でも売りに出せるレベルだけど、カーリー嬢の作りたいものは僕の水がないと出来ないからだそう。


 でもそこは僕も同じだ。カーリー嬢の素材がないと出来ないもの。特別な付加価値を付けたいのだからと言ったんだけど。


 結局売上と、工房に支払う制作費や、販売店への運搬費などの諸経費負担は2対8で、原価に関しては8対2で落ち着いた。


 これって、売上こそ折半だけど、僕の方は原価に1銅貨も支払わないことになるんだよねえ。ほんとにいいのかなあ……。


 経費の精算についても、もともと魚屋のほうに、商人ギルドから店長として来てくれる人に頼めるから、僕は確認の書類にサインするだけだ。忙しければ人を増やせばいいし。


 それらを美容品として、メインは貴族向けに高級路線で売り出していくこと。それと、虫の成分を減らした安価な平民向けも販売しようというのはカーリー嬢のアイデアだ。


 平民も化粧品に興味のない女性はおりませんし、成分を減らしてもなお、現在流通しているものよりも質がよいので、必ず売れますわ!というの彼女の言い分だった。


 これは女性ならではの視点だよね。僕は貴族のことしか知らないから、平民の生活様式はなんとなく、フワッとしか知らないし、ましてや化粧品事情なんて分からないもの。


 こう見えて市場調査はしておりますのよ?と屈託のない笑顔を見せるカーリー嬢に、そりゃあ王家の影なら、情報収集はお手の物ですよね、と喉まで言葉が出かかった。


 今はまだ試作品に近いレベルでも売り物になるけど、まだまだ改良の余地があるから、これからも僕に研究に協力して欲しいのだ、と頼まれたので、そこは快く承諾した。


 大規模販売のために、早速僕の商会を作ろうという話になった。いち個人でやってても取引してくれるところはあるけど、やっぱりどうしても信用度が違うからね。


 ちなみに商会は商売の内容を定款に記載しておけば、その中でどんな商売をしても構わないのだと、カーリー嬢が教えてくれる。


 あとから業種を増やしたい場合は、都度定款を書き換えることになるのだけれど、そのたびに手数料が中金貨1枚かかること、それを世間に告知する法的義務があるらしい。


 これは商人ギルドが代理で、年に1回商会一覧を作って発布してくれるから、それを使えばタダだというのでそうすることにした。


 だからたくさんの業種の商売をするつもりがあるのなら、初めからたくさん書いておいたほうがオトクなんだそうだ。


 書いてある業種を実際にはやらないからって、特にペナルティとかないみたいだから、確かにそれはそうだね、と、思った。


 カーリー嬢は既に自分の商会を持っているから、そこと業務提携を結ぶ契約書を、知性と発展の神さま、レスタトさまに、商人ギルドで誓いを立てる魔法の契約書を交わす。


 裏切ると神罰がくだるのだとか。それはだいぶ重たいね……。その後で、作ってくれる工房とも、同様に契約を結ぶっていうのが、モノ作りをする業種の基本らしいよ。


 カーリー嬢が工房にわたすための、いくつかの商品見本と、作り方を書いた紙を用意している間に、僕はテーブルを借りて、自分の商会の定款をどうするか悩んでいた。


 資本金、商会の住所、代表者の名前、その他の役員の人数、商会の決まり事を変更する際に必要な役員の人数、決算月、中間決算月がある場合はその月、取引銀行、などなど。


 資本金は多いに越したことはないけど、大抵は個人口座の上限の小白金貨1枚以下の金額で開設してから、いずれ大きく変更するのが、個人商会の場合は普通みたい。


 従業員の雇用に関する決まり事は、また別に制作する必要があるらしい。……ふう、事業を始めるって大変なんだなあ。


 別に商会を作らなくても事業は出来るんだけど、大きく儲けるつもりがあるなら、初めから作ったほうがいいらしい。


 商会には税制優遇措置があって、個人が同じ金額稼ぐ際に支払う税率の、半分近い金額になるんだ。賃金を受け取った従業員からも税金を取るからってことらしいよ。


 なんとか悩んで定款を作り上げると、今度はカーリー嬢との契約を作成する。お互いその内容に納得出来たので、今度は一緒に銀行に行って口座残高証明書を貰う。


 これは商人ギルドで商人作成を申請する際に、添付資料として必要なんだって。

 アルムナイの町が、カーマン子爵の領地で良かったよ。別に口座を作らなくてすんだ。

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