第167話 僕の出生の秘密・その3

【“さて、そろそろ時間だ。

 他に聞きたいことはないか。”】

 嫉妬の女神、ディダさまの声がする。そっか、僕のスタミナが尽きるまでだっけ。


「あ、はい。僕の使命を、叔父さんに信じて貰うって目的は、果たせたと思います。」

 叔父さんをチラッと振り返ると、叔父さんはコクッと僕にうなずいてみせた。


【“なれば私から一言言いたいことがある。

 宝石の精霊を呼び出して欲しい。”】

 ──カナンを?呪いまでかけたのに、まだ言い足りないことがあるのかな。


 僕は言われたままに、カナンを呼び出そうとして、はた、とその手が止まる。

【“どうした?早く呼び出せ。”】

 ディダさまのいらついた声がする。


「あ、あの、その……。カナンって、呼び出す時と戻る時に、その、変な反応をするんですけど、驚かないで下さいね!?僕が彼女に変なことしてるわけじゃないから!」


【“──?分かったから早くしろ。”】

 僕は意を決して、首から下げていたペンダントの宝石部分をそっとこすった。


「あっ……、ああっ……!!

 気持ちいいっ、です!マスター……!!」

 カナンがもだえながら、頬を染めて宝石の中から飛び出してくる。


 叔父さん、それ見てポカーン。

 ああもう!だから人前でカナンを呼び出したくないんだよ、もう!


 僕は思わず真っ赤になった。だけど、既に何度も見てきていたのか、神さまたちは誰も特に動揺したりはしてなかった。


「マスター……。嬉しいです。

 また、呼んで下さいましたね。」

 カナンがフワリと宙に浮いて、微笑みながら、僕の首に手を回そうとしてくる。


「カナン、今日は、君に話があるっていう人がいるんだ。だから呼び出したんだよ。」

「私と話したい、方……?」


 カナンは不思議そうに首をひねって、近くにいた叔父さんを振り返る。

「ああ、うん。叔父さんじゃなくてね。」


【“パルフェ……!!”】

 ここまでほぼ空気だった、酒と音楽の神さまである、スローンさまの声がする。

 ──パルフェ?


【“はーい、スローン兄さん、どうどう。

 彼女、兄さんのことなんて、覚えてないからね。それに今はカナン、だからね。”】

 健康と結婚のマルグスさまがいさめてる。


 そっか、スローンさまって、カナンを好きになっちゃった神さまだっけ。ていうか、まだ好きなんだね。守護するものを間違えてない?恋愛の神さまだったほうがいいんじゃ?


【“……はぁ。まいったものだな、スローン兄さんにも。聞こえるか宝石の精霊。今はカナンだったか。お前に話があるのは私だ。”】


「神、さま……?ですか?そのような方が、私になんの御用でしょうか?」

 カナンは僕の首に腕を回したまま答える。


【“お前は無意識に、あまたの存在を誘惑してきた。それはこの私、嫉妬と誘惑の神である私すらも凌駕する、驚異的なものだ。お前に誘惑された者に、私の力がきかないのだ。


 しかもお前はそこになんの力も加えてはいない。ただそこにいるだけだった。

 それなのにお前の存在を超えられない。

 我々はそれを恐れたのだ。


 ──お前は罪を犯し過ぎた。

 このままでは邪神と変わる程の、な。

 お前を消し去る道もあったが、罰を与えることで変化を阻止させて貰った。


 ……皮肉なものだ。魔王を討伐出来ないまでも封印せしめようとする勇者が、邪神に変わりかけていた存在を愛するなどと。


 お前はこれから苦しまなくてはならない。

 お前は今、私の呪いによって、目の前の男を愛しているだろうが、その愛は決して手に入ることはないだろう。


 手に入ることなく、その男が死んだ時、お前の呪いはとける。そこでお前は気付かなくてはならない。もしも気付けない場合は、今度こそ邪神に変わる前に──お前を消す。


 それをゆめゆめ忘るでないぞ。”】


 そう言われて、不思議そうに僕に向き直るカナン。カナンは幸せそうに微笑みながら、無邪気に僕を見つめていた。


「僕も、カナンを邪神になんて変えたくはないよ。だから僕はカナンの気持ちには応えられない。それでね、いつか僕が死んでからでいいから、人を好きになるということがどういうことか、ちゃんと知ってね。」


 意味が分かっているのか、いないのか。

 カナンはコクコクと頷くと、嬉しそうに僕の手を取り、自分の両頬を挟ませる。


 そしてパァァァッと光ると、僕に新たな守護の力を発動させた。

 ──だから、顔!!近いんだってえ!!


【“私の話はそれだけだ。

 さて、本当にお前の話は、これで終わりでよいのか?次はお前のスキルが解放されるまで、我々と話が出来なくなるぞ?”】

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