第165話 僕の出生の秘密・その1

「え?か、母さま……?ホントに?」

 にわかには信じられなかった。幼い頃に死んだ僕の母親が実は女神アジャリべさまの受肉した姿で、僕は本当に神の子なんだって。


【“そうだぜ!アレックス!お前は俺たちの末の兄弟ってことだな!”】

 ぼ、僕が神さまと、兄弟……?

 単なる神の使徒じゃ、なかったの!?


【“それほどまでに、世界は追い詰められているのです。


 人の子もろともすべてを浄化するか。

 我々が関与出来る最大限の方法を持って、大いなる力を授け、今後人の子自身に世界を変えさせるかを、迫らなくてはならないくらいには、ね。


 私も悩みましたが、こちらを選ぶことにしたのです。アレックス。


 あなた1人をこの世界に置くことになるのは、母として辛いことですが、私は同時に世界を統べる神でもあるのです。


 人の子もろとも世界を浄化するにせよ。

 人の子に世界の変え方を伝えるにせよ。


 その為の力を持つ者を、地上に生み出す必要がありました。その為の方法がこれしかなかったのですよ……。”】


「母さ……、アジャリべさま……。」

【“母さまでよいですよ、アレックス。”】

 アジャリべさまが微笑んでいるのが、声だけで伝わってくる。


 アジャリべさまのお声がどこか懐かしかったのは、アジャリべさまが、僕の母さまだったからなんだ……!


「──質問を、よろしいでしょうか。

 アジャリべさま。」

 叔父さんが神妙な面持ちで尋ねる。


【“あら、セオドアも、オリビアで構いませんよ?それか、子どもの頃のように、リビと呼んでくれても構わないのよ?”】

 アジャリべさまが嬉しそうに笑う。


「そ、そういうわけには参りません!

 か、からかわないでいただきたい……。

 いくら幼なじみとはいえ、あなたは神である前に、兄の妻であった女性です。」


 まあ、兄弟と結婚した後まで愛称で呼ぶことは、貴族の間では許されないからね。

 名前を単純に呼び捨てすることも、婚約者や配偶者にしか、許されていないしなあ。


【“相変わらず、かたいのですね。

 では、質問を許可致しましょう。

 なにを知りたいのでしょうか?”】


「さっそくの許可をいただきありがとうございます。……あなたさまが、アレックスを産み落としてすぐ、体調を崩され、その後亡くなられたことについてです。」


【“私が死んだ理由?”】

 まさかそういう質問が飛んでくるとは思っていなかったのだろう。アジャリべさま──母さまはキョトンとしてる。


「あなたさまは、アレックスを産み落とす為に、現人神として、この世に現れたと先ほどおっしゃった。……なのにどうして、あんなにも簡単にお亡くなりになられたのか。」


 ──あっ!!

 そうか!そうだよね!現人神なら力も強い筈なのに、どうして僕を産んだくらいで、体が弱っちゃったんだろう?


【“……そのことですか。私の現世での肉体は、ただアレックスを産み落とす為だけに必要だったもの。アレックスにすべてを渡したから、その力が尽きたまでのことです。


 人の子も、子を産み落とす際、女性は生命を維持する能力を……、この場合は、若さ、とでも言い換えれば、分かりやすいでしょうか?それを子に胎内で与えて子を育てます。


 子を産んだ女性は、産んだことのない女性よりも、若さが失われるものなのです。


 私はアレックスに生命を維持するのに必要な、その殆どの力を与えました。だから肉体が人として生きることに耐えられなかった。


 すぐにいなくなる予定でいましたから、不自然に思われぬように、もともと体が弱いかのような振りまでしていたのですよ?


 ……ですが。お腹を痛めて子を産むのは初めてのことでしたが、こうも離れがたくなるものだとは思いませんでした。


 本当は、産み落としてすぐに、戻る予定でいたのですが、何年も粘ってしまいました。


 その間、他の子どもたちに迷惑をかけてしまいましたが。予定よりもほんの少し長くなってしまったというだけ。それほどあなたは私にとって、愛おしかったのですよ。”】


「母さま……。」

 僕を残して死ななくてはならなくなった母さまの気持ちは、僕もずっと気になっていたけど。そんな風に思っていてくれたんだね。


【“だから申し訳ないのだけれど、あなたの父親──アーロンに対する気持ちはありませんでしたから、彼が本当に愛している人と結ばれて、良かったと思っているのですよ。


 彼女が、──エロイーズさんが、……アレックスに対して、あんな風に接するとは思っていませんでしたが……。”】


 まあ、母さまの死後もなお、嫉妬が凄いからなあ、エロイーズさん。

 あ!し、神罰とか、下されたりはしないよね?エロイーズさんに!

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