第136話 ザックスさんの家探し
近い方のお店に行くと、別の国からの奴隷を預かる仕事をしているのは、斜め向かいの店だけだと言われた。お礼を言って店を出ると、斜め向かいの店に改めて入った。
「いらっしゃいませ。」
店員さんは体格のいい、頭をツルッと剃り上げた中年の男の1人だった。まだ生えてるけど、少ない面積のほうを合わせたのかな。
「レグリオ王国で奴隷を買いまして。
ここで受け取りと、宿の手配をしてくださるとうかがったのですが……。」
「はい、こちらでやっていますよ。」
「彼の為の家を借りようと思っていまして、家を借りられるまでの間は宿に住んで貰うつもりでいるのですが、家を借りる申請をするには、どのようにすればよいですか?」
店員さんは、ちょっとだけ目を見開いてからニッコリ笑うと、
「こちらで許可した家しか借りれません。」
と言った。
「そうなんですか!?」
「奴隷は家を借りるのが難しいのです。お金があれば住めるというものではない。ですので奴隷商人が許可した家のみ借りれます。」
「そうなんですね……。」
「元犯罪奴隷なことも多いですからね。
村になんて絶対住めませんし、町でも嫌がられることが多いのです。」
「ああ、村は、そうですよね……。」
その村の村人たちが許可をしないと住めないものね。元犯罪奴隷が近くに住むことに、いい顔はされないだろうな。
「ですので、奴隷商人が用意した宿や、家を借りて貰うことになります。そこであれば、お金さえ出せばすぐに住むことができます。
申請すれば許可がおります。」
「あ、レグリオ王国で、宿を借りる手続きは済ませたのですが。」
「いつ頃奴隷はこちらに到着を?」
「早くて11日後です。」
「それでしたら、その申請をそのまま家に変更することができますよ。」
「ほんとですか!?」
「普通は買い付けてからすぐに奴隷の家を手配する場合、間に合わないので宿に先に泊まらせるものですが、届くのに時間がかかるのであれば、その間に準備が出来ますよ。」
「じゃあ、それでお願いいたします!
家具とかはいつ頃入れられますか?
必要なものを準備したいので。」
「最低限の家具もついています。敷き藁のベッドですとか、調理器具ですとか、そんなものですがね。ああ、お風呂はありません、当然ですが。タライは用意されています。」
まあ、平民は普通お風呂のない家に住んでいるものね。ミーニャの家だってお風呂がないから、小さいタライに水をはって、体を拭いたり、髪を洗ったりするんだ。
叔父さんの家にはお風呂があるけど、それってかなり贅沢なんだよね。
僕はお風呂が好きだからありがたいけど。
「ああ、奴隷は服をあまり持たないのが基本なので、タンスはありません。タンスが必要であれば、それはご準備下さい。」
「分かりました。」
「3日もあれば家が手配出来ますので、ここの市場でタンスを買う場合は、うちに届けるよう言って下されば設置しておきます。」
「ありがとうございます!」
ザックスさんの趣味もあるだろうけど、それはおいおい賃金で揃えて貰うとして、最初のタンスだけは、僕の趣味にさせて貰おう。
叔父さんも僕にそうしてくれたしね!
アイテムボックスの海に、タンスはたくさんあるんだけど、ルビリオの作品っぽいからなあ……。さすがに新しく買わなくちゃ。
手に入れる為に人殺しまでおきたなんていういわくつきの家具を、下手に置けないからね。叔父さんだって防御の護符を手に入れるまでは買えないって言ってるくらいだし。
奴隷商人さんが、チラリと僕を見る。
「……それと申し訳ないのですが、奴隷の家には購入者は泊まれません。」
「あ、そうなんですね。」
まあ、従業員の家に泊まることはないと思うけど、招かれたとしても泊まれないのか。
まあ、特に困らないから、別にいいかな。
「ですので大変申し訳ないのですが、奴隷をお使いになる際には、外の宿をお使いいただけますか?」
「あ、よそに連れて行くことはないと思います。仕事場は基本市場の中なので。ああ、それとも、もしもいずれ外出先に連れて行くことになったとしたら、申請が必要ですか?」
「……?
奴隷を家に住まわせるんですよね?」
「はい、従業員なので。」
「娼館で働かせるのであれば、あちらに預けたほうがお安いのでは?奴隷用の自宅で客を取るのは法律違反ですし、愛人用の別宅としても使えませんので。」
「ああああ、あのっ!?僕の店は魚屋です!
彼は確かに奴隷ですけど、解体職人として雇うつもりで買っているので!そういう目的で買ったわけではないので!」
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