第83話 初見殺しのFランクダンジョン

 同じ魔物なのに、ダンジョンの中と外で手に入るものが違うとか、不思議だよねえ。

 さすがにリザードマンは、ある程度強いからたくさん倒すのは初心者には難しいけど。


 リザードマンがドロップする灼熱の長剣は特に人気の品で、名前の通り火属性が付与された武器なんだ。火に弱い魔物は多いから、欲しがる剣士が多い品だね。


 攻撃力は+50だけど炎攻撃力+100がついているから、火に弱い魔物だと火力2割増しで、実質攻撃力が180相当にもなる。

 初心者にはありがたい武器だよね。


 それにしても、入場料だけで小金貨3枚とか、楽で儲かる商売だよねえ。ひと山当てたいからダンジョンわかないかな、って思う人たちがいるのも無理ない気がするな。


 それらを防衛強化じゃなく、家を豪華にするのに使ってるみたいで、ニナナイの村は村なのにレンガ作りの家がたくさんあったよ。


 こんな自警団もいない、冒険者ギルドもないような村で豪華な家なんて建てちゃって、狙われるとか思わないのかな?


 そんな風に思ったけど、村人たちはみんな身守りの護符を身に着けて、家にもそれを施しているから、いざ襲われても逃げて誰かの家の中に入れば安全なんだそうだ。


 お高い護符を持っていることを、村の中を歩く人たち全員が、見せびらかすように身に着けているから、それを知っている人たちは襲って来ないんだって。なるほどね。


「──Sランク……、ですか!?

 あなたさまが攻略したくなるほどの魔物はこの中には、その……。あまりたくさん1度に倒されますと、その……。」


 アルムナイの町の近くの、ニナナイダンジョンの受付のオジサンは、言いにくそうに言葉を濁して、へらへらした表情で笑った。


 笑いつつ叔父さんの背中から飛び出ている剣の握りの部分をチラチラと見ている。叔父さんは今日は大剣を背中に担いでいるんだ。


 剣聖ともなると、どんな武器でも扱える。

 大剣は盾代わりにもなるから、僕を守りつつ攻撃する為に、今日は大剣にしたらしい。


 冒険者ギルドではないけど、一応冒険者認定証を受付で提示することになっていて、叔父さんの冒険者認定証を見た途端、ビクッとしたように、変な汗を流していたよ。


「ああ、今日はこいつのつきそいなんだ。

 俺が狩りをする目的じゃあないから、安心してくれていい。」


 と、叔父さんは握った拳に立てた親指で、僕を指差しながら言った。そうですか!そうですか!とオジサンは手もみをしていた。


「……どうして叔父さんが狩ることを気にしたんだろうね?」

 僕はニナナイダンジョンに向かって、叔父さんと歩きながら尋ねた。


「常設ダンジョンで商売をするからには、いつ来てもある程度、冒険者たちが魔物を狩れる必要があるからな。」


「そうだね?その為に来てるんだもの。」

「だがダンジョンの魔物は、狩ると一定時間魔物がわかないものだからな。俺に狩り尽くされるとでも思ったんだろう。」


「そっか。」

 確かにSランクの叔父さんなら、中の魔物を一掃することだって可能だよね。そうなったら、魔物がいないと苦情があるのかもね。


「──さ、ここがニナナイダンジョンの入り口だ。気を引き締めていけよ。

 今のお前には敷居が高い筈だからな。」


 ニナナイ村からしばらく歩いて、ようやくニナナイダンジョンが見えて来た頃、叔父さんが僕にそう言った。


「う、うん。」

「ニナナイダンジョン。別名初見殺しのFランクダンジョンだ。Fランクといえども、甘くないと思ったほうがいいからな。」


「──初見殺し?」

「1体やられると、仲間を呼ぶ魔物が多いダンジョンなんだ。1体ずつなら大したことがないから、Fランクではあるがな。」


「狭いダンジョンの中で集まられると、身動きも取りづらいし、もしも集まって来られたら逃げきるのも大変だからってことだね。」

「そうだ。」


 ダンジョンのランクは、中にわく魔物と、ダンジョンボスのレベルや、ランクで決まるものらしい。ここは魔物自体のランクは低いから、Fランクと決まったそうだ。


 ダンジョンの外でわく魔物は、そんなに数が集まらないけど、ダンジョンの中に巣や集落を作っている魔物は、そのひとつの群れの数がとても多いんだそう。


 集落ひとつに来られたら、確かに大変だよね。僕は叔父さんと一緒だけど、Fランクが何人いたって、倒せる気がしないもの。


「防具はキツくないか?」

「だいじょうぶだよ。」

「なかなか似合ってるじゃないか。」

 と叔父さんが目を細めて褒めてくれた。


「えへへ、そ、そうかな。」

 僕は頭を掻きながらそう答えた。

「リザードマンの装備してた防具だからな、まあまあ強いぞ。初心者なら長く使える。」

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