第57話 迫りくる巨大な影
「……いたぞ。一角ウサギだ。群れでいる。
静かに頭を狙え。
体に当たると肉が臭くなるからな。肩と足と腰がまっすぐになるように立つんだ。」
叔父さんと一緒に弓を構える。
「限界まで引き絞るな、引く力と弓を押す力が五分五分になるように。
引手は顎につけろ。──離せ!!」
「ピィッ!!」
叔父さんが声をかけたタイミングで弓矢を離すと、弓矢が一角ウサギの頭を貫いた。
「うまいぞ!」
一角ウサギの群れが散り散りに逃げて行く中、僕と叔父さんは獲物を拾いに奥へと進んだ。叔父さんが一角ウサギを持ち上げて、弓矢を抜くと、僕に獲物を差し出してくれる。
「何度も練習するんだ。お前はなかなかセンスがあるからな。すぐに上達するだろう。」
「ほんと!?僕頑張るよ!」
一角ウサギの体をつかむと、手のひらを通じて血液が流れる感触と、まだ体温があるのを感じた。わああぁ、生きてるよ……。
美味しく食べるからゴメンね……。
叔父さんから受け取った一角ウサギを、マジックバッグの中に入れる。
初めての獲物に僕は興奮しきりだった。
「さあ、もう少し狩ろう。次は俺もやる。
一角ウサギが集まりやすいところの探し方を教えてやろう。」
叔父さんは山の中を歩きながら、魔物や動物の痕跡の残し方、足跡のたどり方なんかを教えてくれた。一角ウサギは複数の群れがあちこちに縄張りを持って暮らしているそう。
魔物は巨大なものしか罠にかけて狩ることをしない。跳躍力も力もスピードも、動物とは段違いだから、小動物用の罠だと、かかってもすぐに壊して逃げてしまうらしい。
小さな魔物に大きな魔物用の罠はもったいないから、罠にはかけずに、こうして1体ずつ狩るんだって。でも1体狩ると他が逃げちゃうから、1度にたくさんは狩れない。
弱い魔物とはいえ、これじゃあ効率が悪いよね。おまけに動物よりも繁殖力も高いのだとか。定期的に討伐依頼があるわけだね。
一角ウサギは警戒心が強いから、外敵の見える場所でしかご飯を食べない。そして自分が食べる植物以外の根っこにフンをする。
巣は洞穴や木の洞。自分で巣穴は掘らないから、危険と感じたら、いくつかキープしている別の巣穴へと移動する。
だから縄張りは結構広く、数が増えすぎると、群れがわかれてよそに行く。などなど。
そのタイミングで人里に降りてくることも多いらしい。
「……おかしいな?」
叔父さんが木の根っこにした、一角ウサギのフンを見ながら言う。
「なにがおかしいの?」
フンを見ただけで何がわかるんだろう?
目の前には枯れかけた巨木と、その根っこの周辺にされた、一角ウサギのフンがある。
「これを見ろ。一角ウサギは同じ場所にフンをする。多過ぎると木が枯れることもあるくらいだ。……なのに、この木は枯れかかっているのに、フンの数が少な過ぎる。」
「一角ウサギのフンが原因じゃないってことはない?単に栄養不足とか、病気とかさ?」
木が枯れる原因は、別にひとつじゃないと思うんだけど……。
「葉の色を見てみろ。まだらに黄色っぽくなってるだろう?これは一角ウサギのフンが原因で、栄養が偏っている時におこる現象なんだ。一角ウサギのフンの毒素で、こんな風に黄色くなる。まだらなのが栄養不足だ。」
なるほど……。
「つまりはどういうこと?もっといる筈の一角ウサギが、いないってことなの?」
「そうだ。ついこの間まで、この木が枯れるくらいの数のフンをする一角ウサギが、このあたりにはいた、ということだ。少なくとも100体以上はいただろうな。」
「なら、群れがわかれて、人里に降りてくるか、どこかに移動したってことじゃないの?
見かけないから、移動したのかも。」
「そうだといいがな。一角ウサギは30体から50体くらいで群れをなす魔物だ。さっきも10数体しかいなかっただろう?
群れがわかれたにしても少な過ぎる。」
「そっか……。半分以上狩られたら、さすかに別の場所に逃げ出すよね。なのにまだここにいるっていうのは……、なんでだろう?」
「逃げ出すことが敵わない外敵が、近くにいるということなのかも……な。」
「それって……。」
「冒険者ギルドのクエストを、確認してから来たほうが、良かったかも知れないな。
アレックス、今日は1度戻ろう。
冒険者ギルドで情報を集めるんだ。」
「分かった。」
僕らが引き返そうとしたその時だった。
──バキバキッ。
「ピィッ!!」
木々の折られる音とともに、一角ウサギの悲鳴が聞こえたかと思うと、一角ウサギを1体口にくわえて今にも飲み込もうとし、なおかつ体でもう1体をしめつけている、青銅色の鈍く光る巨大な蛇が現れた!!
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昨日予約投稿の日付を間違えて、2つもアップしてました。
ストックが減ってしまった……。
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