第38話 光が消えた扉

 僕もお昼ごはんは食べてきたけど、美味しいそうに肉の焼串を頬張っているヒルデを見ていたら、僕も食べたくなってきた。


 僕もお願いして2本焼いて貰って、ヒルデとおしゃべりしながら食べた。今日はCランクのロック鳥を狩ったらしい。


 空を飛ぶ魔物は、近接職には倒しにくいって聞いたことがあるけど、そんなのまで1人で狩っちゃうのかあ……。凄いや。


 話を聞く限りだと、今日の狩りは上手くいったらしくて、卵を手に入れられたんだと、ヒルデはかなりテンションが高かった。


 納品クエストじゃないけど、ロック鳥の卵は買い取り価格が高いらしくて、結構儲かったんだって。ラナおばさんも、凄いねえ!と驚いてて、ヒルデは照れくさそうだった。


 今日も店は大盛況で、無事に僕もラナおばさんも、在庫をすべて売り払って、僕は町の入口までヒルデに送って貰って別れた。


 今日はマジックバッグのおかげで手ぶらだったから、なんだかヒルデとデートしてるみたいだなあ、なんて思ってしまった。


 叔父さんと一緒に夜ご飯を食べたら、お風呂に入る前にさっそく、アイテムボックスの海の探索を始めることにした。


 叔父さんはいつも、入りたい時に言えばわかすって言ってくれるけど、燃料だってばかにならないし、叔父さんは寝る前に入る人だから、あんまりそことズレたくないしね。


 ちなみに明日はお風呂の薪の薪割りを手伝う予定だ。台所の火は魔道具だけど、お湯を大量に沸かすとなると高いらしい。

 僕はほんとに恵まれてたんだなあ。


 キャベンディッシュ侯爵家にはタンクに貯めた水をお湯にして、浴槽に直接出す魔道具が普通にあったし、井戸から水をくむのも、メイドたちがやってくれてた。


 もっと稼げるようになったら、そのうち僕が叔父さんにプレゼントしようっと。そう考えながら、僕はスキルを発動させた。


 僕の目の前が発光する。思わず目をつむると、眩しい光の奔流に包まれていくのを感じた。目の前に鉄の扉が出てくる。


 僕は魔道具のランタンの明かりをつけると、扉を開けて中に入った。アイテムボックスの海は、前回と何も変わらなかった。


 お祖父さまのアイテムボックスの中も何も変わらない。ひとつ変わったことがあるとしたら、お祖父さまのアイテムボックスの先はしばらく明るい扉だったのが、3つ先の扉がお祖父さまと同じく灰色になったことだ。


「持ち主が死んじゃったってことかなあ。」

 アイテムボックスも、そこまで珍しいわけでもないけど、持ってる人が少ないスキルなんだそうだ。


 もしもアイテムボックスを持って産まれた順番に並んでいるんだとしたら、お祖父さまの後に72人しか産まれてないってことになるね。つまり新しい灰色の扉は、お祖父さまよりも年上の人ってことだ。


 僕は新しく灰色になった扉を開けてみた。

 中はお祖父さまのアイテムボックスとは比べものにならないくらい広かった。


 マジックバッグにも段階があるように、アイテムボックスの大きさは、人によって違うって言うから、この人のアイテムボックスはかなり大きなものだったってことだね。


「うっわああ……!!

 なにこれ、凄いよ……。」

 中は金銀財宝の山だった。特に見たこともないくらいの巨大な宝石が目を引いた。


「──かなり裕福な貴族だったのかな?」

 この国で言うのなら、デヴォンシャー公爵家がそれに相当するけど、あそこの先代のご当主はお祖父さまよりも年下だった筈。


「うーん、なにか他に手がかりはないのかなあ……。お祖父さまと年齢が近いのなら、僕も知ってる人だと思うんだけど……。」


 ああでもない、こうでもないと、アイテムボックスの中の物を探っていると、僕はとんでもない物を発見してしまった。

「これって……、王家の紋章……?」


 確かに見覚えのある、王家の紋章入りの短剣だった。王侯貴族では代々、赤子が産まれると、魔を払う目的で銀で出来た短剣を作って、赤ちゃんの枕元に置く習慣が存在する。


 僕も持っていたけど、キャベンディッシュ侯爵家の家紋入りだったから、家を出る時に父さまに取り上げられてしまった。


 1人にひとつ、新しく作ることに意味がある縁起物だから、これはさすがにエロイーズさんには取り上げられなかったんだけどね。


 つまりこのアイテムボックスの持ち主は、間違いなく王族だったってことだ。お祖父さまよりも年上の王族は、──現在2人だけ。


「まさか、これって、先代王か先代王の母君のアイテムボックスの中ってこと……?」

 もしも万が一そうだとしたら、僕がこの中の物に手を付けるのはかなりマズい。


 いいものがあったら売りに出そうと思ってたけど、王族しか持っていない筈の宝石やらなんやらを、売りに出す人間なんていない。


 万が一売りに出した場合、そこから出どころを辿られて、あらぬ疑いをかけられて、最悪投獄、死罪にならないとも限らない。


「はあ〜……。せっかく金銀財宝を手に入れたと思ったのに……。」

 残念だけど、ここも手を付けられないや。


 仕方がないから、もっと古いところを探ってみようっと。僕は部屋から出ると、もっと下の方の、明かりが消えている扉の中を探してみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る