第26話 双剣使いの冒険者

「やめとけ、やめとけ、そんな男か女か分からん体の奴なんて。女はこう……、でっかくなきゃあなぁ!?」


 違いねえ!!と、男たちが下卑た声でゲラゲラと笑った。

 女の子は目線を落として表情がよく見えないけど、──なんか怒ってるみたい?


 女の子は目の前で静かに双剣を抜いた。

「言っちゃいけないことを言ったわね……。

 あんたたち、もう終わりよ。」

「あん?どうするって……、」


「双剣乱舞、──百花繚乱の舞。」

 その女の子がそう言って、抜いた双剣を持った腕を、胸の前で交差した次の瞬間。


 一瞬何かが光ったようにしか、僕には分からなかった。だけど3人組の男たちは、バタバタとその場に倒れて気を失ったのだった。


「ふん、口ほどにもないわね。」

 女の子は双剣を革のホルダーに入れた。

「……ありがとうございます。

 助かりました。」


「あんたもよ。弱い癖にいきがらないの。

 こんな奴らを刺激したって、痛い目みるだけなんだから!」


「ご、ごめんなさい。」

「明日も来るって言ってたし、狙われるんじゃないの?

 護衛を雇ったほうがいいんじゃない?」


「そ、そうだ、明日……。」

 明日も狙われるだろうし、なんなら嫌がらせに商売を邪魔してくるかも知れない。

 僕は考えなしだったことを反省した。


「こいつらを冒険者ギルドに引き渡さないといけないし、護衛の依頼を出しに行くなら付きあうわよ?──とりあえず、こいつらを冒険者ギルドまで運びましょ。」

 

「え?で、でも、大人が3人だし、人を呼んで来たほうが早いんじゃ……。」

「3人くらい、大したことないわよ。」


 そう言うと、女の子は、ヒョイッと1人を首に引っ掛ける感じに肩にかついで、他の2人を荷物でも持つように小脇にそれぞれ抱えて持ち上げた。


「──さ、行きましょ。」

 と、どうってことなさそうに僕を見た。

 す、凄い怪力だな……。


「ちょ、ちょっと待ってて、タライを落としちゃったから……。」

 僕は急いで転がったタライをすべて拾い集めると、女の子と一緒に冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドに到着して、顛末をギルド職員さんに報告すると、職員さんは、またこいつらか!と声に出して眉間にシワを寄せた。


「何回も苦情が上がってたんだ。

 もう、冒険者登録は取り消しだな。」

 うわあ……。自業自得とはいえ……。


 だけど、牢屋に入ったりとかはなくて、そのまま彼らが気が付いたら、冒険者ギルドから放り出されるそうだ。だとしたら、やっぱり明日が危険なことに、変わりがないよね。


 冒険者をやる人は他の商売につけない人が多いと、昔父さんから聞いたことがあった。

 もちろん叔父さんみたいな人もいるけど。


 一時期は、盗賊をやるか冒険者をやるかの違いだけと言われてた時期もあって、あまり世間の冒険者の印象ってよくないみたいだ。


 それなのに、冒険者をやれなくなったら、この人たちどうするんだろうな?

 人ごとながら心配だよ……。


「それで?護衛依頼は出すんでしょ?」

 女の子に言われて、あっ、と思って、受付で護衛依頼について話を聞いてみた。


「護衛はいくらの荷物がどの程度あるのか、対象に人は含まれるのか、距離はどこからどこまでか、によって料金が変わります。

 必要な冒険者ランクが、それにより決まるものなので。」


 僕は、期間はひと月、場所は市場の中だけで、守るのは僕と僕の店、商品の価格は魚だからええと……。さっき冒険者ギルドにつきだした彼らから守って欲しいのだと伝えた。


「彼ら程度でしたら、Dランクもあれば1人でじゅうぶんかと思いますが、それでも1日となると、それなりのお値段ですよ?

 ひと月で中金貨4枚です。」


 期間で雇うことになるから、お店がお休みだとしても、そこは関係がないのだそうだ。

 お店がなくてもお金を払うのかあ……。


「僕のお店は午後からですし、3時間もいて貰えればじゅうぶんです。」

 さっきは2時間もかからなかったし、行きと帰りは叔父さんと一緒だしね。


「それですと、3時間で銀貨5枚ですね。

 ただ、魔物を狩るよりもかなり安いですから、朝のうちに他のクエストをこなして、午後から護衛をしてくれるという冒険者が現れるのを、気長に待つしかありません。」


 普通は丸一日とか、数日とかで、かなりのお金が動くから集まるものなのだそう。

 明日も来ることを考えると、ケチケチすべきじゃないかなあ……。


 だけど丸一日だと、ひと月で中金貨4枚だよ?いくら魚のもとでがタダとはいえ、痛いなあ……。あいつらに売り上げをまるまる取られるかもって考えたら……。でも……。


 ぼくは腕組みをしてウンウンと唸った。

「とりあえず出してみればいいじゃない、それで駄目だったら、また考えれば?」


 女の子に後ろからそう言われて、とりあえず3時間でひと月、で依頼を出してみることにしてみた。


 先に冒険者ギルドにお金を払うものだそうなので、ひと月分の、中金貨1枚と、小金貨5枚、それと冒険者ギルドへの手数料で別途小金貨5枚と銀貨5枚を支払った。


 受付嬢が護衛依頼のクエストを書いた紙を押しピンで壁に貼り付けてくれる。

 この内容でもやってくれる人が、なんとか見つかればいいけど……。

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