第25話 魚屋さんの開店

「僕はアイテムボックス持ちなんです。

 だから新鮮なまま、たくさん運べるんですよ!別途銅貨3枚で、お隣でその場で焼いて食べることも出来ます。塩味ですよ!」


「……塩がついて、銅貨5枚だって!?」

「お、俺、買ってみようかな……。」

「エノーを1匹くれ。」

「おい、こっちもだ!」


 エノーが次々に売れていく。お隣のおかみさんも、一度にたくさんの魚を持ち込まれててんてこ舞いだ。


「ちょ、ちょっと待っておくれよ、順番に焼いてるからさ。」

「おい、それは俺が金を払ったエノーだぞ!

 勝手に取るな!」


 大混乱になってしまったので、おかみさんに10匹ずつエノーを買い取って貰い、それを焼いたものを、銅貨5枚で売って貰うことにした。うひゃあ、想像以上だよ。


 家に持って帰りたい人は、僕の店から直接買って貰うことにした。

「う、うめえ……。新鮮だとこんなに美味い魚だったのか、エノーって。」


 みんな美味しそうに笑顔でエノーを頬張っている。僕の魚が美味しいと分かって、他の魚もどんどん売れだして、あっという間にすべての魚がさばけてしまった。


 お、おいつかないぃ〜〜!!

 目が回りそうだよ。毎日こうなら、これはちょっとお手伝いさんが欲しいよね。


「今日はもう店じまいです!

 明日またお願いします!」

 ええー、という声が聞こえる。


 毎日魚を食べる習慣がないっていうし、1日にたくさん売り過ぎて、明日来てもらえなくなっても困るからね。


 お客さんたちがゾロゾロと帰っていき、ようやくひとごこちついた頃、おかみさんが興奮したような顔で僕を見る。


「あんた、凄いね!

 おかげでメチャクチャ儲かっちまったよ!

 ……さらに塩までって……、ほんとにいいのかい?」


 僕はおかみさんに物々交換で、塩が入った小瓶を手渡して、ひと月の間、魚を焼きたいお客さんがいたらお願いしますと言ってあったのだ。


 もちろんそれだとおかみさんが現金を手に入れられなくなるし、燃料代もかかるから魚を焼くのは別料金だ。ついでに肉の焼串も塩味追加で、銅貨6枚で売りさばいたらしい。


 肉の焼串は既に自宅で焼いたのを持ってきていて、熱を加えて温めるだけだから、お腹がすいて早く欲しい人は、肉の焼串のほうを買ってくれたのだそうだ。


「はい、明日も来るのでお願いします。」

「ああ、もちろんさ!

 明日は畑仕事に出してるうちの娘も連れてくるよ!こっちのほうが儲かるからね!」


 おかみさんはホクホク顔で店じまいをし、明日も頼んだよー!と声を張り上げて去って行った。


 僕も屋根付き露天商を片付けて、魚を入れていたタライを井戸で水洗いして重ねて持つと、町の入口で叔父さんを待つことにした。


 重ねるとかなり重たい物だから、本当はこのまま置いて帰りたかったんだけど、置いておくと盗まれることがあるからやめときな、とおかみさんが教えてくれたのだ。


 僕のスキルがほんとのアイテムボックス持ちなら、しまって帰れるのになあ。しまえる筈のタライを持ち運ぶ僕のことを、おかみさんは特に気にしていないようだった。アイテムボックス持ちの人を見たことないのかな。


 重ねたタライを持って市場を歩いていた時だった。目の前を突然、3人組の人相の悪い男たちに塞がれて、そのまま腕を引っ張られて路地裏に引きずり込まれる。


 僕の持っていたタライが、派手な音を立てて地面に転がっていった。

「よう、ずいぶん派手に儲けたみたいじゃねえか。俺たちにもちょっと分けてくれよ。」


 さっき冒険者ギルドでチラッと見かけた、嫌な目付きの冒険者たちだ!

 ここまでつけてきたのか!


 きっとさっきから目を付けられていたんだろうけど、僕が露天商で稼いでいたから、売り上げが集まるのを待ってたんだと思う。


 振りほどこうとしたけど、ビクともしなかった。クソッ……!叔父さんがいない時に!

「大人しく金を出したほうが身の為だぜ。」


「そうそう、怪我したくなけりゃあな。」

「明日も商売するんだってな?

 これから毎日金をよこしな。」


「……嫌だ!!」

 こんな卑怯な奴らに、大人しく従ってたまるもんか!!


「身の程を分かっていねえようだな……。」

「軽く痛めつけておくか。」

 ──殴られる!!

「あんたら、何してんの?」


 その時だった。路地の入口から、こちらを見ていた可愛らしい女の子と目があった。

 耳の下くらいの長さの赤い髪、少しつり上がった青い目。かなりぺったんこの胸元。


 冒険者なのかな?

 革の鎧を身に着けていたせいで、余計に胸元の平たさが強調されている。腰には皮のホルダーにしまわれた双剣を下げていた。


「ああん?なんだっていいだろうが。」

「怪我したくなけりゃ、あっち行きな。」

「待てよ、こいつ結構可愛いぞ?」

 男たちの興味が、その女の子に移る。


 駄目だ!この子に怪我をさせちゃうよ!

「僕はいいから、早く逃げて!!」

 だけど僕の心配をよそに、女の子はニヤリと不敵に微笑んだのだった。

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