第23話 平民の暮らし方


「そうだな。レベルがあって、1番大きいものは、ほぼ無限だと言われてる。人が中に入って出入りすら出来るらしい。」


「凄いね!

 僕も扉の向こうに行ったら、海で泳げたりするのかな?」


「さあな。深海につながってる可能性だってあるぞ?そしたら溺れて死んじまうだろ。」

「そっか……。」


 海の中につながってるんだとしたら、すっごく深いところに、突然放り出される可能性もあるわけか。怖いからやめとこうっと。


「さあ、今日はもう休め。

 明日は、朝は畑の水やりや草むしりを手伝ってくれ。昼ご飯を食べたら、市場に行っても構わないから。」


「うん、わかったよ。」

「タンスはひとつだけ購入してある。もっと欲しかったら、それは自分で稼ぐんだ。」

「うん。」


 叔父さんの家はお風呂もあったので、ありがたくいただくことにする。先に入るよう言われたけど、さすがに家主よりも先は申し訳なくて断ったら、ここはもうキャベンディッシュ家じゃないんだぞと笑われた。


 貴族の家では、大浴場は当主よりも先にいただいてはいけないんだ。ここはひとつだろうから、と思ったんだけど。


 ちなみにそれぞれの部屋にも小さなバスタブはあって、それはおのおの、好きな時に入れることになっている。


 父さまは帰りが遅くなることがほとんどだから、僕とリアムは部屋の中のバスタブを使うことが多かった。


「──叔父さん、ひょっとして、武器をお風呂場に持って行くの?」

 腰に短剣と小さな盾を装備したままの叔父さんは、そのままお風呂に行こうとする。


「ここは魔物が住んでいる山のふもとだからな。いつなんどき、何があるかわからん。だから常に警戒しておいて損はないのさ。」

 なるほどね。


 僕は叔父さんの後にお風呂をいただいてから、2階の、僕の部屋の、叔父さんが用意してくれていたタンスの中に、買った服やなんかを整理してしまった。


 まあ、どうせ明日また取りだすんだけど。

 魚を入れる用のタライは、重ねて床の上に置いた。今日は疲れたな……。


 ベッドは干し草をしいた上にシーツをかぶせた、簡易的なものだった。

 靴を脱いで、買っておいた寝間着に着替えてベットに潜り込む。


 干し草、いい匂いだなあ!

 叔父さんが干しておいてくれたのかな?

 普段使ってるベッドマットとは違うけど、フカフカだあ……。まだあったかい。


 僕はぐっすりと眠ってしまい、気が付いたら太陽がかなり高いところまで登った時間に目が覚めたのだった。


 ──しまった!もうお昼だよ!

 慌てて一組だけ購入した寝間着を脱ぐと、服を着替えて靴を履いて一階に降りた。


 テーブルの上には、ふきんをかけられた朝ご飯らしきものが置いてあったのを、横目でちらりと見て通り過ぎる。


「ごめん、叔父さん!寝坊しちゃった!」

 家の中に叔父さんがいなかったから、外に出て畑を見回すと、叔父さんが今まさに草むしりしているところだった。


 叔父さんは僕に気が付いて顔を上げると、

「疲れていたようだったから、寝かせておいたんだ。明日は頼むぞ。朝食は作ってテーブルの上に置いてあるから食べなさい。」


「うん、ご飯を食べたら草むしりをするよ。

 待っててね。」

「わかった。」


 急いで朝ご飯の、パンと野菜スープとオムレツを食べると、畑に出て叔父さんと一緒に草むしりを手伝った。


 叔父さんが持っていた、水を入れる革の布袋を分けて貰って水を飲んで、またしばらく草むしりをして水やりをした。


「今日はこのくらいにしておこう。

 腹が減ったろう、そろそろお昼ご飯にしようか。」


 叔父さんが腰を叩いて立ち上がると、そう言って家に戻っていくので、慌てて後ろから付いていく。


「手伝うよ。」

「じゃあ、野菜を切ってくれ。」

 包丁を渡されて、おっかなびっくり、野菜を切っていく。


「ああ、そうじゃない。昨日やってみせただろう?手はこうするんだ。」

 そう言って僕の左手を丸めさせると、右手の上に自分の手を重ね、そのギリギリに包丁をトントンと動かしていく。ちょっと怖い。


「ゆっくりでいい、やってみろ。

 なんでも反復練習だ。」

「うん。」


 僕は出来るだけゆっくり、叔父さんが教えてくれたように切れるよう、頑張った。

 叔父さんはかたわらで、昨日のスープの残りに野菜を加えて煮ていた。


「よし、そんなもんでいいだろう。

 炒めるから貸してくれ。」

「うん。」


 叔父さんは僕の切った野菜とたくさんのお肉で、肉野菜炒めを作ってくれた。

 今日の昼ご飯は、パンと、野菜スープと、肉野菜炒めだ。


「卵は買ってきてるの?」

 僕はご飯を食べながら叔父さんに聞いた。

「いや、交換でご近所さんから分けて貰ってる。近所と言ってもだいぶ遠いがな。」


 確かに、叔父さんの家の近くには、他の家は影も形もないよね。叔父さんの土地は結構広いからなあ。どこにいるんだろうね?ご近所さんって。僕は挨拶しなくていいのかな?


 ちなみに平民同士の取引は、基本は物々交換なんだって。平民は現金をあまり持っていないことが多いから、お互いお金以外のものでやりとりするのが普通らしい。


 それでも露天商をやったり、狩ったものや育てたものを買い取って貰ったりして、たまに現金を手に入れるものなんだって。

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