第17話 ラカーン商人ギルド長

 ちなみに店舗を借りるなら、ひと月で中金貨2枚から大金貨2枚までランクがあって、買うのなら小白金貨5枚はかかるらしい。


 だけど、ひとつ中金貨1枚までの単価の商品を店で扱うことが出来るとのことだった。

「そのランク判断、ちょっと待った。

 それと、塩の買い取りを頼めるか?」


「塩、でございますか?」

「ああ。こいつはこのレベルの商品を仕入れられるルートを持っている。

 その上で、ランクの判断をして欲しい。」


 かしこまりました、と言って、受付嬢が他の人に塩の入った革の布袋を手渡すと、その人が建物の奥へと消えて行った。


「商人は、仕入れられる商品でランクが決まる。最初に上げられるのであれば、上げておいたほうがいい。」

 と叔父さんが教えてくれた。


 しばらくすると、奥に引っ込んだ人が戻って来て、受付嬢のお姉さんになにがしか耳打ちしたかと思うと、受付嬢のお姉さんが、中へどうぞ、と言って、カウンターの右端のレンガ造りの壁に、スッとドアが現れた!!


 ええっ!?魔法かなんか?

 僕が驚いていると、 叔父さんは何事もなかったかのようにそれを見ていたから、僕もつとめて平然として見せた。


 こういうところはお互い元貴族ならではだよね。貴族はどんな時にでも、動揺を顔に出しちゃいけないんだ。僕はまだまだだな。


 別にもう貴族でもなんでもないんだから、動揺したって構わない気もするけど、相手に付け入られる隙を与えないっていう点においては、商人にも必要なスキルだと思う。


「行くぞ。」

「あ、うん。」

 さっさと歩いて行く叔父さんのあとを、僕は慌てて追いかけた。


 扉の向こうは長い廊下で、扉を開けてすぐのところに、白い手袋をして制服を着た男性が立っていて、僕たちを案内してくれる。


 ──コンコン。

「どうぞ。」

 白い手袋をした男性が、とある扉をノックすると、中から渋い声がした。


 ソファーに腰掛けていた、スーツ姿の男性が、ソファーから立ち上がって、僕たちにお辞儀をする。


「セオドア・ラウマンさまと、アレックス・キャベンディッシュさまですね。

 わたくしはこの地区の商人ギルド長をしておりますトーマス・ラカーンと申します。」


 ──メチャクチャ偉い人が出て来たよ!?

 叔父さんは臆することなく、ソファーに腰掛ける。僕もすすめられるがまま、叔父さんの隣に腰掛けた。


 僕は緊張して背筋を伸ばす。

 叔父さんはいつも通りだった。

 僕はラカーン商人ギルド長の向かいに座りながら、内心ドキドキしていた。


 まさかこんな大物が出てくるとは思わなかったよ……。

 ラカーン商人ギルド長は、白髪混じりの金髪を後ろに撫で付けていて、グレーの瞳をしていた。


 40代後半くらいかな?とても落ち着いた雰囲気のある紳士だ。

 背筋が伸びていて、姿勢がとても良い。


 仕立ての良いグレーのスーツを着ていて、肌の色は白磁のように白く、顔には年齢相応のシワがあるけれど、美男子と言っていいほどの整った容姿をしている。


 ちなみにこの国では、男性は髪を短く刈っている人が多いから、平民でこういう髪型の人はかなり珍しいんだ。


 貴族は別だけどね。叔父さんは短めだ。

 ラカーン商人ギルド長は、僕たちが座るのを待って口を開いた。

 僕は黙って聞くことにする。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 用件はわかっている筈なのに、ラカーン商人ギルド長は改めて叔父さんに確認をした。


「塩を売りたい。」

「かしこまりました。

 お持ちいただいたものをこちらへ。」


 ラカーン商人ギルド長が手を上げると、部屋に案内してくれた、白手袋を付けた男性が一度部屋の外へと向かい、四角いトレイのようなものに乗せた小箱を持って戻ってくる。


 ラカーン商人ギルド長に小箱の乗ったトレイを手渡すと、そこには叔父さんがさっき渡した塩入りの皮の袋がおさめられていた。


 袋に入っているのに、どうしてわざわざ別の箱に入れたんだろ?万が一にも袋がやぶけて塩がこぼれないようにする為なのかな?


「こちらにお売りいただけるのですか?それとも商人登録の手続きをなさってから、店舗でお売りになるということでしょうか?」


「いずれ店舗でも販売予定だが、まずは商人ギルドに買い取って貰いたい。

 商人ランクを上げる為にな。」


「かしこまりました。

 商品を確認させていただきますね。」

 ラカーン商人ギルド長は、皮の袋の紐をほどくと、中の塩に触れもせずに、じっと袋の中身を見つめだした。


 ──あれ、もしかしてこの人鑑定スキル持ちなのかな?だとしたらちょっと厄介かも。

 スキルで出した塩と普通の塩の違いを見抜かれでもしたら、何か言われないだろうか。


 僕の心配を知ってか知らずか、叔父さんは相変わらず無表情のまま無言だった。

 僕は叔父さんの言葉を待つことにした。下手なことを言ったら、怒られそうだしね。


 叔父さんはちらりと僕に視線を向けると、無言でうなずいた。

 ──俺に任せろ。

 そう言ってくれているような気がした。


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ブクマが1000を超えました。

本当にありがとうございます。

昨日間違えて何日も先の予定の分をアップしてしまい、慌てて予約投稿に変更しました。

前の話がアップされていなくとも、アップ出来る仕様なのを初めて知りました。

通知が行った皆さま、混乱させてしまい大変申し訳ありませんでした。

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