第12話 冒険者のススメ
だけど叔父さんはその時のことを覚えていてくれて、僕を笑顔で歓迎してくれた。
叔父さんとは関わったことのないリアムより、僕が来ることになって正解だったな。
「母さまとは幼なじみだったんですよね。」
「まあな。兄貴の婚約者として、長年家に出入りしてたからな。」
多分叔父さんは母さまが好きだったんだと思う。そのせいか、母さまと顔立ちが似ている僕にもとても優しい。未だに独身なのも、そのせいかも知れないな、なんて思う。
だって、絶対モテるよね?正直父さまよりもカッコいいもの。子ども好きな叔父さんが結婚しない理由なんて、他にない気がする。
多分、父さまがエロイーズさんと。母さまが叔父さんと結婚したほうが、誰も不幸にならなかったんじゃないかなって思うんだ。
その時僕は生まれないかも知れないけど。
叔父さんが父さまだったらなって、考えたことがないわけじゃない。だけどお互いの気持ちだけじゃどうにもならないのが、親に権利を握られてる、貴族の結婚なんだよなあ。
「まあ、立ち話もなんだから、家に入れ。
うまい茶を入れてやろう。」
叔父さんはそう言って、笑顔で家の中に招き入れようとして、玄関先で派手にコケた。
「だ、だいじょうぶ!?」
「いててて、鼻を打った……。
いや、だいじょうぶだ。問題ない。」
あーあ、こっちに振り向いたまま入ろうとするから……。相変わらずドジだなあ、叔父さん。昔からかなりのドジで、見た目がいかついのに、どこか憎めない人なんだよね。
そういえば、僕のスキルのことを父さまが伝えたらしいけど、叔父さんは冒険者だし、僕のスキルについて何か情報を持ってたりしないのかな?
世界中を旅していたんだし、教会が知らない他国のことまで、色々と知っていそうな気もするよね。
後で色々と聞いてみようっと。
「ようこそ、我が家へ。」
叔父さんは改めて、僕を家の中に案内してくれて、お茶を振る舞ってくれた。
きちんと整理された室内。だけどあんまり物がないのは質素を好む叔父さんの趣味だ。
一点豪華主義というか、タンスなんかはいいものを使っているらしい。
「──……!!
美味しいです。」
「だろう。」
そう言って叔父さんが笑う。
叔父さんが入れてくれた紅茶は、びっくりするほど美味しかった。
「実家で飲んでいる味に似てるけど、でも、なんか違う味に感じます。」
「俺の唯一の趣味でな。キャベンディッシュ家と同じものを仕入れてる。お前のお母さんもよく喜んでくれたものだ。」
そう言ってお茶菓子のクッキーをかじる。
紅茶は父さまはあまり好まない。どちらかというと、母さまが大好きなんだ。多分、母さまを喜ばせてあげようとしているうちに、叔父さんの趣味になったんだろうな。
「──それで?商人になりたいんだって?」
「はい、魚だとか、こういうものを売ろうと思ってます。あ、これ、お土産です。」
僕は革の布袋に入れた塩を手渡した。
叔父さんは袋を開けてペロッと塩をひとなめすると、
「──なんだこれは…!!
こんな上質な塩をどうやって……。」
「僕のスキルを父さまから聞いてらっしゃらないですか?〈海〉と言って、海に関するものが手に入るスキルなんです。だから魚なんかも、なんでも手に入りますよ。」
「なんでも、だと?スキル自体を聞いてはいたが、そんなに凄いものだったとは……。」
「海に関するものだけですけどね?」
ということは、叔父さんはこのスキルについて詳しくないってことだね、残念。
「試しに出してみて貰えないか?」
「わかりました。何がいいですか?」
「うーん、そうだなあ……。
そうだ。ニニガを出してくれ。」
「ニニガ?なんですか?それ。」
「知らないだろう?だからだ。
お前が自分の知らないものでも、出すことが出来るのかを見たいんだよ。」
「わかりました。」
僕は椅子から立ち上がると、後ろに後ずさって、家の奥に通じる扉に背中をつけてスキルを発動させた。スキルの扉を出すには、ちょっとテーブルが邪魔だからね。
僕の目の前が発光する。
眩しい光の奔流に包まれて、背の高い木で出来た扉が現れて、手も触れていないのに、扉が勝手に開いていく。
叔父さんはそれを見て驚くと、思わずガタッと椅子から立ち上がった。
僕はニニガ、と声に出す。
すると扉の向こうからトゲトゲした、痛そうな黒っぽいものが飛び出してきて、テーブルの上にチョコンと乗った。
「なんてこった……!本当にニニガだ。」
「……なんですか?これ。」
「浅海の岩場にはりついている生き物だ。
珍味だぜ?俺は好きだな。」
「へえ……。」
大人の味ってことかな?
「これなら、商人だけじゃなく、冒険者にもなれるな。」
「え?冒険者?僕、冒険者になるつもりは別にないんだけど……。」
それを聞いて叔父さんが笑う。
「昔の言葉遣いになったな。もう貴族じゃないんだ。敬語じゃなくていいさ。」
「あ、そ、そうだね。」
僕は、へへ、と笑った。
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