第8話 スキルのレベルアップ

 僕は引き続きスキルを試してみることにした。出すだけで消せないのは困っちゃうものね。さっきは魚が泳いでいるのをイメージしたら、泳ぐ魚が出てきてそのまま残った。


 今度はそのまま扉の向こうに戻る姿をイメージしてみたらどうだろうか?

 僕はそれを試してみることにした。今度はちゃんと魚を入れるカゴを用意したよ。


 僕の目の前が発光する。

 眩しい光の奔流に包まれて、再び僕よりも背の高い木で出来た扉が現れて、手も触れていないのに、扉が勝手に開いていく。


 そしてまた海の中に突然移動したかのように、きらめく銀色の魚たちが、僕の頭上を、真横を、足元を、優雅に素早く泳いでいく。


 僕はそのロアーズ魚の群れが、扉の向こうに戻る姿をイメージしてみたんだ。

 するとロアーズ魚たちはクルリと向きを変えて、扉の向こうに泳いで帰って行った。


「──やった!……成功だ!

 今度は1匹だけ出してみよう。」

 1匹だけが泳いでくる姿をイメージする。


 するとやはり1匹のロアーズ魚だけが、扉の向こうから泳いで来た。これなら欲しい数を出すことが出来るぞ!!


 すると、頭の中に、【スキルがレベルアップしました】、という文字が浮かぶ。

 レベルアップ……?


【《スキルレベル2・生命の海》名称指定したものを取り出すことが可能になりました】と、また再び文字が浮かぶ。


 名称指定したもの?この魚のことかな?

 僕はカゴの中のロアーズ魚を見つめる。

 確かにロアーズ魚をイメージしたけど。


 それともこれまでは、僕がイメージ出来るものしか出せなかったけど、これからはそうでないものも出てくるってことなのかな?


 やった!これでなんでも手に入るぞ!

 あとはそれがどの程度この国で必要とされるかと、僕が騙されないように、商売や相場を勉強しなくちゃだよね!


 あとは……出すとしたら塩だな。けど、このまま出てきたら、集めるのが大変だよ。床に落ちた塩なんて、さすがに使えないし。


「えーと、ここに確か……。あった!!」

 僕は以前父さまからいただいた、革の布袋を引き出しから出して広げた。


 これは父さまから借りている物じゃないから、家を出る時返却しなくてもいいものだ。

 そう思うと、僕の物ってほんとに少ない。


 本当は水を入れる為のものだけど、これしか塩を入れられそうなものがないからね。

 ええと、ここに塩が入るところをイメージして……と。


 するとまた僕の目の前が発光して、木の扉が現れる。サーッと白い砂粒のような物が現れて、革の布袋の中へとおさまった。


「……やった!成功だ!

 これは叔父さんへの手土産にしよう。」

 僕はいたく満足した。


 今日の夕ご飯は、僕の出したロアーズ魚だった。そのことを料理長が説明してくれる。

「スキルが使えるようになったのか。」


「はい、試行錯誤ですが。」

 父さまの問いかけに答える。

「兄さま!これ美味しいよ!」

 リアムが嬉しそうに言う。


「本当に魚を出すスキルなのですね……。

 クスクスクス。」

 エロイーズさんがそれを聞いておかしそうに笑っている。


「お前の今後の生命線だ、しっかりスキルの習得に励みなさい。」

「はい。」

 ロアーズ魚は確かに美味しかった。


「そうだ、アレックス。セオドアから返事が来ていた。いつでも来てくれて構わないとのことだった。明日にでもたちなさい。」


「明日……、ですか?」

 随分とまた急な話だ。まあ、スキル発覚から婚約破棄まで、全部がこの数日の出来事なんだものな、今更か。


「兄さま、行っちゃうの……?」

 リアムが寂しそうな顔をする。

「うん。そうみたいだ。」


「今日も一緒に寝てくれる……。」

「ああ。もちろんさ。」

 僕は笑顔で答えた。


「リアム、あなたはもう大きいのですよ?

 そんなみっともないことはおやめなさい。

 あなたは当主になるのですよ?」


 僕らが仲良くするのが面白くないエロイーズさんが、リアムを強い口調で咎めた。母親に叱られてリアムがしょんぼりする。


「兄弟の今生の別れだ。構わないだろう。」

「ですが……。」

 エロイーズさんはまだ不服そうだ。


「明日からアレックスは平民として生きるのだ。我々とは別世界の人間となる。それくらい許してやりなさい。」


 父さまはもう、僕と関わる気がないんだろうな……。叔父さんにも年1回すら手紙を書かないし、僕とリアムもそうなるのだろう。


「リアム、良かったらお風呂も一緒に入ろうか?今日は僕が洗ってあげるよ。」

「うん!」


 普段は従者が洗ってくれるけど、それを断って2人だけでお風呂に入る。

「リアムに僕のスキルを見せてあげるよ。」

「ほんと!?」

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