第6話 スキルの発動
その間リアムが毎日部屋に訪ねてきては、僕と遊ぼうとするのだけれど、さっそく後継者教育が始まったらしく、すぐに家令によって家庭教師の元へと連れ戻されていった。
僕と離されるたびに泣いているリアムを見て、僕はだんだんとリアムと離れることがより寂しく思えてきた。
2度と会いたい人に会えない悲しみを、僕は既に知っていたのに、生きているからどうしてもすぐには実感がわかなかったんだ。
リアムは毎日エロイーズさんに何かを言い含められているらしく、僕よりも敏感にそのことを感じていたみたいだ。
代わりに毎晩泊まりにくるので、リアムが寝るまで連日おしゃべりをした。
「えへへ。兄さまと寝られるの嬉しいな。」
なんて言われて断れるはずもなく、一緒に寝る事になった。
「ごめんねリアム。
ずっと一緒にいられなくて。」
「ううん、謝らないで、兄さま。」
「……でも、どっちが平民になっても、いつかは僕らは永遠に離れることになるんだ。
それがほんの少し早まっただけだから。」
「……うん。」
平民と貴族は関わりを持たない。叔父さんと父さまも、ほとんど交流を持ってない。だからこの先リアムとは会えなくなるんだ。
僕はこっそりリアムを支援するつもりでいたけど、堂々と表立って会えないことに変わりはないんだよね。
貴族に輿入れした平民もそれは同じで、家族とは関われなくなってしまう。特に王族なんて、嫁いだ先で子どもや孫が出来ても、手紙で知らせることすら許可されていない。
これは王族に平民が嫁いだ場合も、万が一王族が平民に降嫁した場合も同じ。相手が貴族なら会いに行くことだって出来るけど。
まだ平民になった家族と、手紙でやり取り出来るぶん、貴族のほうがマシなくらいなんだよね。それでもしょっちゅうは出来ない。
上位貴族の後継者以外の男児なら、下位貴族の娘に婿入りすることもあるけど、下位貴族の場合それは少ないから、男爵家とか子爵家だと、跡取り以外は、ほぼ平民確定。
下位貴族の場合、今後関わることがないからと、跡取り以外の子どもに、親も、兄弟である子どもも、はじめから冷たい、なんてことも珍しくないんだ。
どうして平民と貴族は関わっちゃいけないんだろ。今更だけど変な決まりだよね。貴族だけが色々と恩恵を受けるけど、代わりに大人になると親兄弟と会えなくなるだなんて。
「まったく……。リアムは甘えん坊だな。
僕がいなくなったら、お前がしっかりしないといけないんだぞ?」
「わかってるよ……。でも今はまだ、いなくなったあとの話はしないで、兄さま。」
リアムはブランケットから目だけをだして拗ねたように言ってくる。
僕がいない毎日のことを、考えたくないのが伝わってくる。
「わかったよ。じゃあ、そうだね。裏庭で見つけた黒猫の話をしようか。」
「猫!?猫がいたの?僕飼いたいんだけど、母さまが許してくれないんだ……。」
目を輝かせたあと、がっかりした表情を浮かべるリアム。
「当主になる勉強を頑張ったら、許してくれるかもしれないよ?」
「──ほんと!?」
「うん。
きっと父さまが説得してくれるよ。」
リアムと過ごす時間はとても楽しくて、リアムと離れることだけは寂しいなと思った。
僕が大商人になって、キャベンディッシュ家に出入り出来るくらいになったら、またリアムとも会えるようになるよね。
そうなれるように頑張ろう。
僕はミーニャと結婚生活をおくれるだけの稼ぎでいいと思ってたけど、キャベンディッシュ侯爵家の出入り商人になれるくらいを目標にすることにしたんだ。
少ない荷物の整理はすぐに終わってしまったから、僕はスキルが使えるよう、日中は試してみることにした。
確か、海のイメージを強くする……だったよな。海。母さまと行った海。日傘をさしてほほ笑んでる母さまはキレイだった。
海がとてもまぶしくて。魚がはねてて。
うん。イメージしやすいな。
魚が欲しいとねだって母さまを困らせたっけ。あの魚、なんだったんだろう……。
欲しかったなあ……、あの銀色の魚……。
僕がそんなことを思い浮かべた時だった。
【《スキルレベル1・生命の海》を発動します】、と頭の中に声が響いた。
──その時、僕の目の前が発光する。
思わず目をつむると、眩しい光の奔流に包まれていくのを感じた。
目を開けると、そこには僕よりも背の高い木で出来た扉があって、手も触れていないのに、扉が勝手に開いていくではないか。
まるで海の中に突然移動したかのように、きらめく銀色の魚たちが、僕の頭上を、真横を、足元を、優雅に素早く泳いでいく。
うわぁ!!
ぼ、僕、本当に魚を出しちゃったの!?
これ、どうやって消したらいいんだ!?
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