第4話 婚約破棄

「つまり……?」

「素養がある人には、その人と関係のあるギフトが与えられる場合があるのです。」

「え。」


「あなたの場合だと、海や水に対して特別な思い入れやイメージを膨らませれば、使えるようになるかも知れないということです。」

 そう言って、若い祭司さまは微笑みかけてきた。


 海や水に対する、特別な思い入れやイメージを膨らませる……。

 なるほど、そういうことだったのか。


 水魔法使いだった母さま。そんな母さまと唯一出かけた、レグリオ王国の海への避暑旅行。僕の大切な思い出だ。


 それに僕自身、小さい頃から水遊びが好きでよく川や湖で遊んでいた。水と火のどっちに思い入れがあるかと言われれば、だんぜん水だと言わざるをえない。


 だからきっと、それが関係しているに違いない。自分の持っているユニークスキルについて、色々と分かった気がする。


 ただ、まだ完全に納得できたわけでもないけれど……。せめて水魔法だったら……。

 そんなことを考えていたとき、ふいに別の祭司さまたちの声が聞こえてきた。


「しかし、この子は将来有望な才能の持ち主かもしれません。ユニークスキルには他にも様々な種類があって、中にはかなり珍しいものもあるんですよ。」


「そういったものを持った人なら、冒険者として大成できる可能性もありますからねえ。

 まぁ、もちろん本人の努力次第ですが。」


 冒険者か。

 そういえば父さまの弟である叔父さんも、昔冒険者をやっていて、その時の話を聞かせてもらったことがある。


 なんでも、とても危険な仕事らしくて、時には命を落とすこともあるらしい。

 僕には絶対に無理だな……。


 ガックリと肩を落として祭壇から降りる僕を、サイラスがニヤニヤしながら見ていた。

 親と一緒に来ているから大人しくしてるけど、今度会ったら何か言われるんだろうな。


 僕は落ち込む僕を見て、心配そうな表情を浮かべるミーニャに挨拶をして、父さまとともに侯爵家の馬車で帰ったのだった。


 次の日の朝の朝食の時間に、事態は急変した。父さまが突然、話がある、と神妙な顔付きで切り出した。


「──昨日エロイーズとも一晩話し合ったんだがな。……この家は今日より、リアムに継がせることとする。」


「え。」

 僕は驚きのあまり、持っていたフォークを皿の上に落とした。


 カシャンという音だけが虚しく響く。

 父さまのその言葉に一番驚いたのは僕ではなく、リアムだった。


「どういうことなの!?父さま!!」

 寝耳に水だったらしいリアムも、驚いて父さまにたずねている。


「……オーウェンズ伯爵家より、オフィーリア嬢の婚約者を、リアムに変更しないのであれば、婚約破棄させて欲しいとの打診が、帰ってすぐにあったのだ。」


 苦虫を噛み潰したような顔でそう言った父さまがため息をつく横で、エロイーズさんはどこか誇らしげだった。


 オフィーリアは僕の親同士が決めた婚約者だ。ぼくよりも誕生日が早くて、先日鑑定で火魔法と土魔法の、2つものスキルをいただいたと聞いた。しかももともと魔力が高い。


 魔力の高い魔法使いの配偶者が、喉から出が出る程欲しいキャベンディッシュ侯爵家としては、理想の婚約者だ。


「……どうやら、オーウェンズ伯爵家の関係者があの場にいたようだな。」

 ──……サイラスだ!!


 僕がオフィーリア嬢の婚約者に決まってからというもの、何かにつけて僕に絡んでくるようになったんだ。


 多分僕と婚約破棄させようとして、オーウェンズ伯爵に報告したに違いない。自分が取って代わろうとしたのだろう。


 残念ながら、オーウェンズ伯爵は、キャベンディッシュ家の財産と名声目当てだから、サイラスの思うようにはいかなかったけど。


「当家としてはオフィーリア嬢を是非とも娶りたい。だが欲しいのは跡継ぎを産むためであって、貴族同士の婚姻の為じゃない。」


 ……まあ、そうだろうね。当主になれないとなると、オーウェンズ伯爵家にリアムは婿入りすることになるもの。


 オフィーリア嬢をキャベンディッシュ家の当主と結婚させるつもりの伯爵も、そういうつもりでリアムをと言ってきたんだろうし。


「──オフィーリア嬢は、僕より5つもお姉さんですよ!?」

「貴族間の結婚に、5つ差なんて大したことじゃありませんよリアム。」


 エロイーズさんが、婉然と微笑みながらリアムに言う。家同士の繋がりだから、歳の近い子どもがいなければそういうこともある。


「リアムに魔法のスキルがギフトとして付与されるかは分からない。だが、オフィーリア嬢がいれば、次世代は間違いなくステータスの高い魔法使いが生まれるだろうからな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る