第2話 鑑定の日

 昔は塩を巡って戦争もおきたらしいけど、今は友好国であるレグリオ王国との取引のおかげで、供給量も安定してるしね。


 そんな大国だから、平民の生活ぶりも、よその国と比べるとかなり良い方らしい。その分他所の国から犯罪者も多く出入りする。


 だけど、豊富な鉱山資源を元に、領主の騎士団も平民たちによる自衛団も活躍してるから、国内の治安は良い方だと思うよ。


 ただ一つ問題があるとすれば、それは魔物の存在だと思う。隣国との境目ほど、その脅威に対抗する為、辺境伯の力が強いんだ。


 魔物と一口に言っても色々あるけれど、僕の住む王都の近くではゴブリンやスライムなどの弱い魔物が多いらしい。昔家の庭に出た時は、うちの騎士団が倒してたな。


 とはいえ、どんな魔物でも油断すれば命を落とす危険がある。だから15歳で成人になると同時に、子どもには必ず鑑定を受けさせるように法律で定められているのだそうだ。


 それなのに孤児が教会で鑑定を受けないのはなぜなのか。それは鑑定するには教会に寄付が必要だから。有料なわけじゃない。

 ──あくまでも寄付、であるけど。


 法律で決まっているとはいえ、鑑定を受けさせる義務を定められているのは保護者側。

 全員の鑑定分の寄付なんて出来ないから、孤児は鑑定なしってことになるんだ。


 よその国は鑑定は無料で(うちの国も一応無料のていだけど)、孤児の中にも凄いスキルを持つ子どもが見つかることもあるのに。


 よほどよいスキルじゃないと、剣術と魔法学の学園にも行かれないんだよね。ごくまれに凄いスキルを持つ子どもが見つかって、特待生として編入することがあるくらいかな。


 孤児は引き取りてが見つからない限りは、大人になって孤児院を出なくちゃならなくなったタイミングで、大抵が冒険者になる。


 そこで冒険者ギルドで鑑定して貰って、よいスキルがあれば、基本はそのまま冒険者や商人、鍛冶職人などの工員の道へ。


 だけど仕事につながるスキルがなければ、それはもう色んな方法で、生きていく道を模索することになってしまうらしい。


 貴族と平民の子どもたちは、鑑定結果で自分に戦える力があるのかを知り、高いレベルの戦えるスキルを貰った子どもは、剣と魔法を教える学園に入ってその力を磨き、将来は国の為に働く仕事につくのが基本だ。


 でも、魔法使いは貴族の子どもに生まれることが多いから、魔法使いクラスは貴族の子どもばっかりになるんだけどね。

 平民も裕福な商人の子どもばかりだ。


 そして今日はその鑑定の日なのだ。朝食を終えた後、父さまに連れられて、王都にあるかなり大きな教会にやってきた。


 教会の中に入ると、既に何人もの子どもたちと、その親たちが集まっていた。みんなワクワクしているらしく、ザワザワしていた。


 同じ侯爵家のサイラスも、両親に連れられてやって来ていた。僕に気が付くと、フン!とそっぽを向いた。嫌だなあ。


 僕の婚約者であるオフィーリアのことが好きらしく、オフィーリアと婚約してからというもの、何かと僕につっかかってくるんだ。


 僕の幼なじみで、キャベンディッシュ侯爵家のメイドの娘のミーニャと、その母親であるマーサの姿も見えた。


 ミーニャは僕の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。肩にかかる程度の栗色の髪に、大きな青い瞳。平民の女の子たちがみんな履いている、膝丈のスカートに半袖姿。


 背はあまり高くなくて、華奢な体付きの割に、こう……、豊かな胸元をしている。笑顔のまぶしい、とっても可愛らしい女の子だ。


 侯爵家の長男である僕には、互いの両親が取り決めた、オフィーリアという名の美しい婚約者がいるのだけれど、僕は小さい頃からずっと、ミーニャのことが好きだった。


 彼女は僕の初恋の女の子なんだ。

 だけど家を継ぐ貴族の子どもや、令嬢たちは、自分で結婚相手を選べない。

 これも法律で決まっていることなのだ。


 だから僕はミーニャに好きだと言う権利すらなかった。遠くからそっと眺めるだけ。

 もちろん幼なじみだから、仲はいいけど。


 ミーニャと結婚出来たらどんなにかいいだろう。僕は別に貴族でなくたっていいんだ。

 ミーニャと一緒に小さな家で暮らしたい。

 ただそれだけなんだ。


 ミーニャに似た子どもは可愛いだろうな。ミーニャにそっくりな女の子がいいなあ。将来お父さんと結婚するって言い出して、ミーニャと僕の取り合いになったりするかもね。


 想像するだけで幸せな気持ちになる。

 だけど、それは難しいことだというのは分かってるんだ。


 ミーニャは平民の娘だから、僕の結婚相手として父さまが選ぶことはない。彼女が優秀な魔法使いであれば話は別なんだけど……。


 僕らは互いに挨拶を交わした後、一緒に教会の奥へと進んだ。教会の一番奥には祭壇があり、その上には大きな水晶玉が置かれていて、祭司さまが立っていた。

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