デートと打算
今日はエレオノーラとレナードが、二人ででデートに出掛ける日。
急なお出掛けにレナードの緊張はピークだが、エレオノーラはうきうきしている。
きっかけを作ってくれたのはリオーネなので、妹には本当に感謝している。
以前にリオーネと二人でお茶を飲んでいた時の事だ。
ティアシーアはあいにくと忙しく二人でのティータイム。
リオーネがお茶を飲みつつ話題を振る。
「今度ティアシーア姉様とミカエル様と共に街に行ってまいりますの」
そういえばそんな約束を取っていたことを思い出した。
「本当はエレオノーラ姉様も誘いたかったのですが。まずはティアシーア姉様が素直にミカエル様の愛情を受け止めてからではないと難しい思いまして。結ばれた際はぜひ皆でお出かけしたいですわ」
にこりと笑うリオーネはとても可愛らしい。
エレオノーラ並みに数多くの縁談が集まっているのだが、そのどれにもリオーネは首を縦に振らないのだ。
「そうね、その時はリオーネも意中の男性と一緒になってるかしら?」
エレオノーラはリオーネが誰に思いを寄せているか知っている。
ティアシーアももちろんのこと、城内の者も勘が良い者は知っていた。
身分違いだと囁かれているが、リオーネはその相手を自ら公言はしていないし、その恋の相手とされているものも、「気のせいではないですか?」とはぐらかしている。
公然の噂的な話でしかない。
「えぇ。そうなるように頑張りますわ、ティアシーア姉様が結ばれれば、私にもチャンスが増えますもの」
リオーネは自信たっぷりに頷く。
嫌われてはいないし、彼にもまだ婚約者はいない。
そしてリオーネと結ばれることは、彼にもたくさんのメリットがある。
絶対に了承してくれると確信している。
「エレオノーラ姉様も市井でのデートはいかがですか?エレオノーラ姉様もレナード義兄様も忙しいかもしれませんが、たまには息抜きでいかがです?」
渡されたのは観劇のチケットだ。
「取ったのは良いのですが、ティアシーア姉様達の予定が合わず、無駄にするのも劇場の方に悪いので……」
そそっと勧められたのは恋愛ものの観劇だ。
やや描写が大人向けと聞いたが。
「本当に余りもの? ティアシーアには刺激が強くなくて?」
「ですからエレオノーラ姉様に確かめてほしいというのもあります。確かこの日は外せない公務もありませんし、ちょうどいいのではと思いまして」
ニコルは不本意とばかりに頷く。
「奥手なレナード義兄様も少しは意識を変えてくれるかもしれませんし。婚姻までの間に、多少は積極性も持っていただきたいでしょ?いつまでも初々しい義兄様も可愛らしいとは思いますが」
小悪魔的に笑うリオーネは時にエレオノーラよりも大人びた表情をする。
幼い頃より様々な国を外遊してきており、色々な知識に長けているのだ。
「応援ありがとう、リオーネの為にもレナードを誘って楽しんでくるわ」
じっと観劇のチケットを見る。
そういえばダンスとかパーティ参加は多いが、このような普通のデートは初めてする。
仕事から離れ、服装もいつもとは変え、外で食事をしてくる。
エレオノーラは段々と楽しみになってきた。
「ぜひ楽しんできてくださいね」
早く姉達が結ばれて世継ぎが出来れば、リオーネの恋の成就も早まる。
勿論姉たちの幸せを願っているのは当然なのだが、彼を誰かに取られたくない思いも強い。
国王である父には頼んで彼の名が入った婚約届が届いたすぐにでも教えてほしいと頼んではあるが。
嬉しそうなエレオノーラの様子にリオーネも嬉しくなっていた。
レナードは馬車の中で固まっていた。
隣には王城でみるような隙のない服装ではなく、綺麗なデコルテが見えるドレスを着たエレオノーラ。
外を歩くときはショールを巻くそうだが、今は車内で二人なので外している。
うっかりすると胸元まで目が行きそうで、目のやり場に困っている。
いつもと違う雰囲気と装いのエレオノーラに、緊張感がぬぐえない。
「今日はよろしくお願いしますね、レナード」
そっと腕を組まれ、熱っぽく言われればレナードは顔を赤くしながらも、その顔から目が離せない。
柔らかな感触と温かい体温、いつもと違う露出のある服と香水、絡められる指先。
まだ慣れることは出来ない。
甘い雰囲気ではあるものの、思っていた距離感と違う事に、レナードは困惑してしまった。
このままでは清い交際から逸脱しそうだ。
(もしや試されている?)
婚前交渉などレナードにはあり得ない。
しっかりと手順を踏んでから、エレオノーラを幸せにすると決めてるのだ。
しかし、エレオノーラに触れられるとすぐにこの気持ちが揺らいでしまう。
エレオノーラは純粋にレナードを慕ってくれてるだろうに、邪な事を考えてしまう自分が恥ずかしい。
目的地に着くまで懸命に別なことを考えていた。
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