ティアシーアの恋

「ミカエル」

突如現れた弟にレナードは手を上げて挨拶する。


ティアシーアは避けていた人が現れ、驚いて固まっている。


「兄様達と一緒だったのですね。ずっと探していたのになかなか会えず困っていたのですよ。ねっ、ティアシーア様」


「その、お久しぶりです……」

ティアシーアが後ろの従者に何やら言っている。


(フゥ!きちんと見張っていてって頼んだじゃない!)


「うっかりです、うっかり。ほらミカエル様がお待ちですよ」

フゥはひょうひょうとしており、主に対する態度ではない。


「この前はありがとうございました。ずっとお礼が言いたくて探していたのですよ。今日のドレスも素敵です、瞳の色と同じ黄緑色でティアシーア様によく似合っていますね。今度私からも贈らせてください」


「いいえ、そんな!滅相もございませんわ!」

ミカエルの積極的なアプローチを見てレナード以外は察した。


明らかに気がある。


「あら素敵ですね、では今度ミカエル様とお買い物に行かれるといいと思いますわ。実際に見た方がいいもの。さぁさ、ぜひその予定を立てましょう。フゥ、ティアシーア姉様の予定はもちろん把握してますね?」


「勿論です、お任せするですよ」

リオーネがティアシーアのフォローをしつつ、話を進めていく。


「エレオノーラ姉様もお疲れではないですか?この時間中庭ならば人が少ないですよ。少しレナード義兄様と休まれるといいかもしれませんね」

そっとエレオノーラに伝える。


「こちらは私にお任せを。中庭ですが、少しの間人払いをお願いしましたのでゆっくりお過ごしください」

にこりとリオーネは微笑む。


この妹は人の恋に敏感すぎるだろう、手回しの速さに驚いてしまう。


好意に甘え、エレオノーラはしなだれかかる。


「レナード、わたくし少し疲れてしまいましたの。中庭で休みませんか?」


「それは大変だ。エレオノーラ様、あまり無理はされないでくださいね」

体を支えるように肩に手を回される。


普段は恥ずかしがるくせに、エレオノーラが体調が悪いなどやむを得ない時は積極的だ。


ギャップに驚いてしまう。


頬を可愛く染めたエレオノーラを見送り、リオーネは改めてティアシーアに向き直る。


(ティア姉様もあれくらい素直ならいいのですが)

これだけミカエルがアプローチをしてくれているのだから、ティアシーアが頷くだけで結ばれそうなものだ。


せっかく想い人が声をかけてくれてるのに勿体ない。


(じれったいのは嫌いじゃないけど、姉様達が結婚してくれないと私も想いを伝えられないのよね)

言われたわけではないが、やはり順番は気にしてしまう。


何よりレナードもミカエルも真面目だ、必ず姉達を幸せにしてくれるだろう。


「フゥ。ティア姉様とミカエル様を会わせてくれてありがとね」


「あのままでは進まないと思ったのです。主には幸せになって欲しいので」

勘の良いティアシーアはミカエルの気配を感じると避けに避けていた。


エレオノーラと会話している隙をついて、フゥはミカエルを見つけてわかるようにアピールしたのだ。


「ミカエル様ならティアシーア様を受け入れてくれそうですし。家柄も申し分ないです。それに騎士を辞めて淑女に為れなどとは言わないでしょうから」

ティアシーアは今まで幾度となくそのような事を言われてきた。


幼い頃からティアシーアに仕えるフゥとしては、そんな事をいう人間が信じられなかった。


主が選んだ道を他の者が口出しすることは許されない。



ティアシーアの家族は彼女の気持ちを尊重し、否定などしない。


反対する者は関係ない他人ばかり。


彼女に酷い事を言うものは、屠ることすら厭わなかった。


ティアシーアはフゥの恩人だ、何を捨てても守るべき人。


「少し妬けるわ、あなたはティアシーア姉様ばかり見ているから」


「おや、僕が抱くは忠義心だけですよ」

ミカエルのライバルになる気も、横恋慕する気もさらさらない。


ティアシーアとフゥの間にあるのは純然たる主従関係だけだ。


「そう。ではこのままティア姉様を見守ってあげてね。とても不器用だから」


「そうですね」

優しく話しかけるミカエルと、顔を赤くしながら受け答えをするティアシーアを、二人は少し離れた場所で微笑ましく見つめていた。








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