ヤキモチ
「あれは……」
レナードと話すは見知らぬ令嬢。
いや見たことがある。
ミリア=クノーツ子爵令嬢。
レナードと初めて会ったあのパーティで、レナードが一生懸命ワインを拭いてあげた令嬢だ。
なぜ彼に触れているのか。
そんな許可は出した覚えはない。
「クノーツ子爵令嬢」
極力怒りを抑えて言ったはずなのに、言葉には棘と冷たさが混じってしまう。
「彼はわたくしの婚約者ですよ、離れてちょうだい」
冷徹な声と怒りに満ちた表情。
慌てたレナードがミリアの手を振りほどいた。
「違うんです、エレオノーラ様!」
レナードが弁解するより早く、ミリアが口を開いた。
「レナード様、優しくしていただいてありがとうございます。私、この思い出を忘れませんわ」
両手を胸の前で合わせて微笑む姿はとても可憐だ。
「またいっぱいお話してくださいね。エレオノーラ様、失礼いたします」
「お待ちなさい」
去ろうとしたミリアをエレオノーラは引き止める。
「どういった経緯でレナードに触れたのですか。場合によっては許しませんよ」
「ヤキモチですか?エレオノーラ様」
うふふ、とミリアは微笑んでいる。
「レナード様とまたお話出来たことに、感動して泣いてしまった私にハンカチを貸してくれたのですわ。その手が当たってしまっただけです」
がっつり握っていたが。
ミリアの言葉に、エレオノーラは不快さを隠さない。
「当たっただけ、には見えませんでしたが。今後彼には近寄る事は許可しません」
「まぁ!本当にたまたま触れただけなのに…王女様はもっと広い心をお持ちかと思いましたが」
困ったようにミリアは首を傾げる。
「表立って人の婚約者に手を出すような女にかける情けなどありません」
女の戦いにレナードはおろおろした。
自分がミリアをつっぱねる強さがなかったことで、招いた諍いだとわかっているから、尚更焦ってしまう。
「レナード様は可哀想ですね」
ミリアは呟いた。
「どういった意味ですの?」
「レナード様は、エレオノーラ様が怖いから逆らえないのです。婚約を断ることも出来ず、好きでもないのに側にいなければならない。可哀想だと思いませんか?」
明らかなる不敬だ。
ニコルがミリアを連れて行こうとするが、エレオノーラが止めた。
「そうなのですか、レナード。わたくしが怖いと?」
ミリアの前ではっきりさせようと答えを求められる。
「いえ、怖いなんて思いません。エレオノーラ様の事はずっとお綺麗な方だと思ってました。でも、知れば知るほど可愛くて、特に恥ずかしそうに笑う顔がなんとも…」
そこまで言ってエレオノーラの手によって、レナードの口は塞がれた。
「みなまで言わなくていいですわ」
真っ赤になって睨みつけられる。
レナードは口を閉じてこくこくと頷いた。
「クノーツ子爵令嬢。憶測でものを言うのはよくないですわ、此度の不敬は見逃しますが、今後王家主催のパーティにあなたを呼ぶことはできません。速やかにお帰りになって」
「なぜです?私は本当の事を言っただけですよ」
「わたくしが無理矢理レナードと婚約したと言ったではないですか。この婚約は王家とスフォリア家が結んだ契約です。あなたのその発言は王家とスフォリア家を侮辱することになるのですよ、おわかりになって?」
婚約は個人同士のものではない。
家と家を結ぶ大事なものだ。
「それがわからないのならもう一度勉強し直しなさい。そんな考えでは貴族として過ごしていけませんよ」
まだ文句を言うミリアをニコルが無理矢理連れ出していった。
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