王女と公爵令息

「痛くありませんか?」

エレオノーラは心配し、声をかける。


レナードを別室に移動させ、ソファに座らせる。


膝からの血が先程よりもズボンに滲んできていた。


「体を動かすのが苦手でして、受け身も取れませんでした」

あははと笑うレナードに、エレオノーラはくしゃりと顔を歪ませる。


「誰かに当たらないように、グラスを手放さないようにしてましたよね。割れたらもっと大変になっていたでしょう」

中身は仕方ないにしろ、グラスは凶器となり得る。


その為レナードは咄嗟に手をつくのを諦め、グラスを死守しようと、そのまま前面に倒れてしまった。


「手放しては迷惑になるかと思ったのですが、どちらにしろ迷惑になってしまいましたね」

令嬢達のドレスを台無しにし、場を騒然とさせてしまった。


笑みは浮かべつつも、レナードはとても落ち込んでいる。


「いえ、あなたが悪い訳では無いですわ」

悪いのはあの令息達だ。


「楽しいパーティで不快にさせてしまってごめんなさい、わたくし達の監督不行き届きです。あのような者達を招いてしまったこちらの責任です」

惜しげもなく謝罪の言葉を口にするレエレオノーラを見つめ、微笑んだ。


「ありがとうございます。エレオノーラ殿下はお優しいですね、全ては僕の不注意からなのに。こうして励ましてくださるなんて、嬉しいです」

レナードの笑顔に胸がぎゅっとなる。


「何故すぐに転ばされたのだと言い訳をしなかったのですか。わたくしが声を掛けなければ、ただ転んだと見なされ、冤罪を掛けられるところだったのですよ」

誰も責めようとせず、己の不注意だというレナードの言葉に、エレオノーラは憤ってしまった。


レナードはキョトンとする。


「そんな事、考えもつかなかったです。今日を楽しみにしてきた令嬢達が恥をかかないようにと、必死になっていましたから」

冤罪かぁと呟くと、レナードは少し翳りを帯びた表情をする。


「ワインを掛けてしまったのは僕ですから、悪いのは僕です。それにもう悪評だらけですから、あの場で口にしても信じてもらえなかったと思いますよ」

会場での嘲笑の声は、レナードの耳にも届いていた。


「エレオノーラ様もご存知でしょう?愚図で鈍感で気が利かない……それが世間からみた僕の評価ですから、今更何か増えても気にしません」

エレオノーラもレナードの評判は聞いている。


しかし、実際に話してみたレナードは、自分の事よりも人の事を考える男だ。


今回のようなレナードが悪者にされる事も多数あったのではないかと思われる。


エレオノーラはそんな彼が気になって仕方なかった。


ドアがノックされ、ようやく呼んでいた治癒師が入ってきた。

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