新米魔女のお小遣い大作戦
COTOKITI
第1話 魔法少女の家出
地球の民の誰もが知らぬどこか遠い世界。
その異世界の片田舎で、全ては始まった。
「なんで駄目なのさ!!」
「そんなの、危ないからに決まっているでしょう!!自分の娘を喜んで戦場に見送る親が何処にいるのよ!!」
「母さんの言う通りだ!魔導士になるなんて俺も絶対に認めないぞ!!」
片田舎の大農場を営む一家。
親、子共に豊かな暮らしを過ごしており親子の仲の良さは村の中でも有名な程。
ただこの時ばかりは、いつも通り仲良しという訳にはいかなかった。
「今までは学問の為と目を瞑っていたが、魔術の勉強も禁止にしなければならないようだな!!」
「ちょっとパパ!それは無いでしょ!?」
娘の言葉を聞き入れず、父親は手に持っていた一枚の紙を原形も残さず引き裂いた。
それは、彼女が魔術を極める為に目指していた魔導学校への受験申請書類だった。
手に入れるのにとても苦労したその書類を只の紙屑に変えられた娘は、涙目で床に散らばった紙屑を拾い集めようとする。
「…兎に角、魔導士としての道は認めん。お前はこの農園を継ぐんだ」
「これからは魔術に関する物は全て捨てさせて貰うわ。あなたももうすぐ大人なんだから仕事の勉強をしなきゃ」
魔導士は軍人の中でも戦場に於いて殺害優先度が高く特に死亡率の高い役職だ。
しかも魔術という特性上高威力の一方的な攻撃方法により、敵兵の恨みを買いやすくもし敵に捕まればその先にあるのは終わりなき凌辱か、想像を絶する苦痛の果ての死のみ。
だから普段は優しい両親がここまで反対するのも無理は無かった。
両親の言葉に対して、彼女は何も言わずに俯いている。
「そう……そんなに我が子が自分の思い通りにならないのが気に入らないんだ」
「なんですって――」
そう言って、娘は階段を駆け上がり自室に閉じこもった。
「エストラ!」
「今はそっとしておこう。大丈夫、あの子もいずれ分かってくれる」
==========
自室に閉じこもった娘、エストラ・ファニージは泣くでも怒るでもなく、ただ何かの支度をしていた。
持てる限りの荷物を入れた鞄を、自室の中心に置く。
自室の床には、巨大な菱形の模様が描かれていた。
様々な文字や絵が描かれたその模様の中心に、エストラは鞄と共に立つ。
「本の通りに描いた筈だから…合ってれば成功する筈…!」
呟きながらエストラはその模様、術紋に手をかざす。
そうすると彼女の中で大気中の魔素を返還して生成された魔力が、体を通して術紋に充填される。
魔力を込めると術紋は重低音と共に光を放ち始める。
エストラが起動した術紋は、この世界に於いて禁忌とされている術式だった。
「開いた…転移門!」
その術式とは、転移術式。
名前の通りありとあらゆる物体を、任意の位置に瞬間的に移動させることが出来る。
次元に干渉する事によって動作する術式の為、術式の組み方によっては理論上時間や世界そのものの壁すら越えられると言われている。
魔導士になる事を頑なに拒む両親に辟易した彼女は昔から家出の計画を立てており、それがこの転移術式だった。
禁忌とされているのは昔、誤った術式を描いた事による転移座標のズレで上空や海の底或いは地面の中に転移し、そのまま死亡する事故が後を絶たなかったからだ。
なのでここでのエストラの行いは見た目以上に命懸けだった。
「よし……!転移門は安定してる!今のうちに―――」
「エストラ!何をしているの!?」
人が通れるサイズにまで大きくなり安定化した転移門を潜ろうとした時、轟音を聞きつけた両親が鍵を掛けた扉を破って飛び入って来た。
そして、部屋に駆け込んだ二人の足が不運にも転移術式の術紋の一部を乱してしまった。
「えっちょっ、何してくれてんの―――」
潜っている最中に術紋に異常が生じた為、エストラは逃げるのが間に合わず転移門を完全に潜り切ってしまい、門は直後に安定性を失い消失した。
後に残ったのは効力を失った術紋と、呆然とその場に立ち尽くす両親だけだった。
新米魔女のお小遣い大作戦 COTOKITI @COTOKITI
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