クラスごと異世界召喚されたけど俺だけ追放されたので魔族側につくことにしました

ひとねこ

第一話 はみ出し者の追放


 

(退屈だ……)


 高校に入学してから早三ヶ月。変わり映えしない高校生活に闇雲やみくもとおるは嫌気が差していた。

 正門から校舎に入り、靴を履き替え自身の教室へと向かう。


 

 ガラガラガラ


 

 扉を開け教室の中に入る。 

 

 一瞬教室内が静まり返り、その後何もなかったかのように元の喧騒へ戻る。


(いい加減慣れないのか)

 

 そう思いつつも口には出さない。透は窓際に位置する自分の席に座り、鞄から小説を取り出す。


 透はクラスでハブられている。入学当初から誰とも群れず一人孤立していたが、とある出来事がきっかけで今のような状況になっている。


 透自身はさほど気にしておらず、むしろ誰とも関わらずに済むとこの状況をありがたく思っているが、それを密かに心配している人もいる。

 

 「はあ……」


 ため息を付き窓から空を見上げた。どんよりとした透の心とは対象的に太陽が燦々さんさんと輝いていた。

 

  

 キーンコーンカーンコーン

 

 

「お前らー席に着けー」

 

 チャイムが鳴り、教室に入ってきた先生が号令をかける。今日も退屈な一日が始まる。……はずだった。


 

「うわ、眩し!」


 

「なんだ!?」

 

 

 突然謎の音とともに教室が光り始め、クラスが騒然とする。


(一体何が起きてるんだ?)


 

 

 ——————————


 


(ここはどこだ?)


無駄に広い空間。豪華な絨毯にシャンデリア。さながらRPGの城のような謎の部屋に透たちは飛ばされた。

 

 

「なんだここ!?」


 

「私たちさっきまで教室にいたのに」

 

 

 突然見慣れない場所に来たことで、皆動揺した声を上げていた。


静粛せいしゅくに」

 

 どこからか声が聞こえてきた。そちらのほうを向くと、高級そうな衣服をまとった男性がいた。この空間に似合った服装をしている。


 その奥には玉座と呼ぶにふさわしい椅子があり、そこには王冠を被った男——すなわちこの国の王が座していた。

 

(まさか異世界に召喚されたのか……?)


 そんな馬鹿げたことあるはずないと自身の腕をつねったが、痛みを感じたことでこれが夢ではなく現実であるということを理解した。

 

 非現実的な事象を信じていない透だったが、自身が巻き込まれてしまえば信じざる負えない。


「おい、どこだここは!誰だお前らは!」

 

 誰かがそう声を上げた。

 

(いや、どう考えても異世界召喚されたんだろ。見ればわかると思うんだが。脳の処理が遅いな)


 と、クラスメイトに内心で毒づく透だったが、この状況で冷静でいられる彼のほうがおかしいのは言うまでもない。

 

「お前とは随分無礼じゃの。余はディアグル・アロガンツ・ルールフォース。この国の王だ。余がお主たちをこの世界に召喚した」


 

「つまり……異世界?」

 

 

「そんな……ほんとに……?」

 

 

 状況を理解したクラスメイトたちが戸惑いの声を上げる。


「お主たちには魔王討伐のため我々に協力してもらいたい」


 

「え、うそでしょ?」


 

「私たち普通の高校生だよ?」


 

 皆口々に騒ぎ始め、収集が付かなくなっていった。


 そんな中、このクラスの担任である篠宮しのみや純也じゅんやが前に出た。


「いきなり異世界?に召喚されて魔王討伐に協力しろって言われても無理な話ですよ」

 

 至極真当なことを話す篠宮に対してディアグルは、


「異世界から召喚された者には特別な能力が与えられる。それを今から確かめるのだ」

 

 と言い、側仕えらしき人が持っている、どうあがいても水晶としか形容できない物体を指さした。


「その水晶に手をかざすとその人の適性属性がわかるのだ。さっそくやってみよ」


「うおおお、なんとも異世界っぽいですね」

 

 異世界系の物語でありがちな展開に一部のオタクはわくわくしていたが、不安そうな人も数多くいた。


「まずは俺が行こう!」

 

 そう先陣を切ったのはクラスの中心人物である火口雄太ひぐちゆうただ。彼はクラスカーストの最上位にいる人物であり、一部の生徒からは恐れられている。


「よかろう。前に出よ」

 

 ディアグルがそう促し、雄太が水晶の前に来た。

 

 彼が手をかざすと水晶が赤く光った。


「ほう。火属性か」

 

 火属性だから赤。なんともわかりやすい仕組みだ。


「よっしゃ!かっこいいやつきた!」


 ガッツポーズをしてはしゃぐ雄太。しばらくたって、赤く光った水晶に文字が浮かんできた。

 

「ん?なんだこの文字?」


「それはお主が今使える魔法じゃ」

 

 なぜかは解明されていないが、異世界人は初めからいくつかの魔法を習得している。魔法の数には個人差があり、多い者もいれば少ない者もいるが、大抵ひとり一、二個の魔法が初めから使えるのである。

 

 水晶には『ファイアーボール』と『ファイアーフィスト』という二つの魔法名が書かれていた。


 

「では、次の者来い」


 

「あ、俺水だ」


 

「私は氷だって」

 

 


 クラスメイトが次々と水晶に手をかざしてく。そんな中、ひと際注目を集めた少女がいた。

 彼女の名は光月茜里こうづきあかり。成績優秀、容姿端麗。おまけに人当たりも良く、まさに優等生を絵に描いたような人だ。


「なんと!まさか初めからこれほど沢山の魔法が使えるとは!しかも《ヒール》まで……」

 

 ディアグルが驚いている。彼女の属性は光。光属性の人自体は数人いたが、はじめから十を超える数の魔法を使える人はいなかったし、《ヒール》が使えるのも彼女以外いなかった。


 

「では最後の者、来い」


 

 そしてようやく透の番がやってきた。水晶の前に立ち手をかざす。程なくして水晶が黒に染まった。


「な、まさか闇属性じゃと!?」

 

 その結果にディアグルはひどく狼狽ろうばいした声を上げた。


 クラスメイトの中に水晶が黒くなった人は誰一人おらず、透だけだった。

 

「闇属性ってそんなに珍しいんですか?」


「珍しいどころの騒ぎではない!闇属性は魔族しか使えないのじゃ!」

 

 ディアグルが絶叫している。

 驚きはクラスメイトにも伝播でんぱし、皆口々に騒ぎ始めた。


「え、魔族ってどういうこと?」


「あいつ人間じゃないのか?」



「静粛に!」



ディアグルの側近らしき男が大声を上げ、騒ぎはしだいに収まっていった。


「ディアグル様、どういたしましょう」


「......」


 ディアグルは考え込んでおり、側近の問いかけに答えなかった。


 ようやく口を開いたのは、三十秒ほどが経過したあとだった。


「悪いがお主をここに置いとくわけにはいかぬ。最低限の金を渡すから出て行っておくれ」

 

 その身勝手な言葉に透は怒りを覚えた。勝手に召喚しといて都合が悪いから出て行けと?ふざけるな。


 「それは酷くないですか!」

 

 そう声を上げたのは茜里だった。


 まさか彼女が発言するとは、さすがの透も予想することはできなかった。


 (めんどうだな)

 

 透としては出てけと言ってくるような人間のもとにいたいと思わないため出ていくこともやぶさかではなかったのだが、彼女のせいでそうもいかなくなった。


「適性が闇属性だからって理由で追い出すのはどうかと思います!たしかに闇属性は魔族だけなのかもしれないけど、でも彼は人間です!」

 

 そう必死に庇おうとする茜里に透は違和感を覚えた。クラスで一番嫌われている透をクラスで一番人気のある彼女がわざわざ庇う理由がわからなかった。

 

「俺はこいつが出ていくの賛成だぜ」

 

 必死に主張する茜里の前に雄太が出てきた。


「どうせ居ても居なくても変わんねーからよ。な、みんなもそう思うだろ」

 

 雄太がクラスメイト達に問いかける。誰も答えないが皆思ってることは同じだ。


「で、でも……。そうだ、先生!先生は闇雲君に出て行ってほしくないですよね?」

 

 茜里が担任である篠宮に話を振った。 


「えーと……闇雲自身が決めるべきなんじゃないか?」

 

 そう当たり障りのないことを言う篠宮に透は苛立ちを募らせた。「本人の意見を尊重する」と言えば聞こえがいいかもしれないが、彼はただ責任をもちたくないだけであるということを透は知っている。


「俺は全然良いですよ、出て行っても」

 

 俺が承諾すると思っていなかったのか茜里が目を見開いて驚いた。


「闇雲君!?そんな、危険すぎるよ!」

 

「このクラスに俺はいないほうが良いだろ。だから別に構わねえよ。死んでも良いと思ってるし」


「でも……」

 

 良いと言っている透に、茜里はなおも食い下がってくる。

 

 彼女がなぜこんなにも透を庇おうとするのか、彼には全く見当がつかなかった。

 

 だがこれ以上長引いても面倒だ。そう思い、透は茜里に対してアクションを起こした。

 

「あーもう鬱陶うっとうしいな。偽善者は黙ってろ」


「!」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえた。茜里も驚き固まっている。

 

 透はさらに続けた。


「クラスでひとり浮いてる俺に優しくすることで『私は優しいですよ』ってことを周りにアピールしたいだけだろ。そういうのはほかでやってくれ。俺を使うな」

 

 その言葉に茜里は何も言うことが出来なくなった。


(図星か……)

 

 少し言葉が強すぎたかもしれないと思ったが、透の言ったことが真実なら申し訳なく思ってやる必要もない。


「じゃあそろそろいいですか?」

 

 事の顛末てんまつを黙って見ていたディアグルに透は尋ねた。


「ああ。では兵士よ、彼を連れて行け」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして透は城から追放された。王の間から出る際、茜里が、


「死なないで……」

 

 と、呟いていたが、それは聞かなかったことにした。



 

 ——まさかこのセリフがフラグになりかけるとは、このときの透は知る由もなかった——



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