百五十円分の私の想い

Nekome

死なないでね

「ねぇ、あそこから飛び降りたらどうなるかな?」


 友達の凛はビルを指さし、急にこんなことを言った。

 心臓が大きく脈打つ。

 

「死んじゃうんじゃない?」


「ゆうちゃんは私が死んだらどう思う?」


「別に、ただアーシンジャッターって思うだけだよ、なに、死にたいの?」


 嘘だ。凛が死んだら悲しいし、きっと立ち直れない。


「いやぁまあ、死んでもいいかなぁって」


 嫌だ。死んでほしくない。


「私は凛が死にたいなら死んでもいいと思うけど、他の皆は悲しむんじゃない?」


 声は、震えていないだろうか。


「そんなの私には関係ないじゃんね~」


「確かに。でも良いの?凛が自殺したら凛の体べたべた知らない人が触って調べるんだよ」


「あ~!」


「想像してみ、知らない太ったおじさんが凛の机の中勝手に開けたり見たりするんだよ。嫌じゃない?」


「それやだなぁ……!!」


「でしょ?そういうのが嫌なら諦めるんだな」


「はーい」


 凄く酷い例えを言ってしまったような気もするが、まあ仕方ない。何か言わないと凛が消えてしまうような気がしたのだ。

 自分が置いていくのは構わないけれど、置いて行かれるのはいやだ。

 他愛のない会話をして、私と凛は歩を進める。


「ねぇゆうちゃん~ジュースおごってよ」

 

「は?自分で買いな」


「えぇ~だめ?」


 いつもだったら絶対奢らないし、凛も私が奢らないと分かって言っているのだろう。


 だけど今日は、今は


「一本だけなら許す」


 凛が、少しだけ驚いているのが分かる。


「やった~」


 そう言って凛はウキウキで自販機に駆け寄った。

 その姿はいたずらをした後の凛にそっくりだ。


 ……うまく乗せられてしまったのだろうか。

 まあ、騙されていても、いなくても、なんでもいい。


 私は自分の財布から百五十円を取り出し、自販機に入れる。

 

 もし騙されたのだとしても、死んでほしくないという百五十円分の私の想いが、凛に伝わればいいと思う。

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百五十円分の私の想い Nekome @Nekome202113

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